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環境を汚染する鉄鋼業は今すぐ脱炭素化を——企業はその購買力を行使せよ

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先日、FoEフィンランドは、鉄鋼を購入する企業が、製造時に大量の二酸化炭素を排出する鉄鋼の脱炭素化を促すために、その購買力を活用しているかを分析しました。 同団体が今回作成したスコア表によると、企業の取り組みは微々たるものです。

ヴェラ・カウッピネン氏(FoEフィンランド)による寄稿

先日、FoEフィンランドは、鉄鋼を購入する企業が、製造時に大量の二酸化炭素を排出する鉄鋼の脱炭素化を促すために、その購買力を活用しているかを分析しました。 同団体が今回作成したスコア表によると、企業の取り組みは微々たるものです。

企業は自社のサプライチェーンからの排出量を無視している

多くの企業にとって、サプライチェーン(上流のスコープ3)の脱炭素化は、自社の直接的な温室効果ガス(GHG)排出量削減よりも優先すべき活動分野になっています。 鉄鋼は、原材料として非常に多くの企業に供給されるものであり、二酸化炭素(CO2)排出量の多い製品でもあります(鉄鋼1トン当たり2トン近くのCO2が排出される)。 ですので皆さんは、鉄鋼バイヤーはすでに鉄鋼サプライチェーンの脱炭素化を当然牽引しているだろうと思うかもしれません。

FoEフィンランドでは、鉄鋼を購入する企業11社が、スコープ3排出量を削減するために極めて重要な分野において、行動を起こしているかを評価しました。 これらの企業はフィンランドで事業を展開する主要な鉄鋼バイヤーであり、その分野は機械、建設、再生可能エネルギー、造船、消費財などさまざまです。 各社には以下の点について質問しました。

  • 各社は、自社の出発点を把握しているか。つまり、鉄鋼サプライチェーンの排出量およびその他の環境影響を開示しているか。
  • 影響を把握している場合は、そうした排出量について、科学的根拠に基づく削減目標(SBT)を設定しているか。
  • 市場に明確なメッセージを発信し、自社の購買力をバリューチェーンの脱炭素化に向けて活用しているか。

スコア表に示した評価結果から、改善の余地が多いことが分かります。 最高得点は、100点中21点にとどまりました。

この得点表には、以下の項目が含まれています。

  • 開示:ほとんどの企業が自社の事業についてしか報告せず、サプライチェーンについては透明性を著しく欠いています。 多くの企業はリサイクル鋼材の使用を謳っていますが、現在のリサイクル鋼材の使用率がとても低いことを認める企業もありました。 また自社生産全般もしくは一部の製品ラインにおけるリサイクル鋼材の使用率を明確に開示しているのはわずか2社でした。
  • コミットメント:化石燃料フリーの鉄鋼を購入すると約束している会社は一つもありません。
  • 変化の奨励:化石燃料フリーの鉄鋼生産を奨励するために、小さな取り組みを進めている企業は2社あります。しかし、「スチールゼロ」のような、購入企業連合によるサプライチェーンに対する強い働きかけや、オフテイク契約(長期供給契約)、ジョイントベンチャー、低炭素鉄鋼への投資といった、鉄鋼メーカーとの正式な取り決めによって奨励している会社は一つもありません。

最低得点は、開示、目標設定、およびサプライチェーンに対する働きかけに関して、ほとんどすべての指標で進展が見られなかったことが要因となっています。 最低得点となった2社は、供給メーカーを選定する際にコストだけでなくサステナビリティも考慮している、と明記しただけでした。

最高得点は、スコープ3排出量を分けて提示する、生産におけるリサイクル鋼材の使用率を報告する、などの適切な開示によって達成されたものです。 最高得点の企業は、バリューチェーンの排出削減目標について、企業に対し科学的根拠に基づくCO2排出量削減目標を設定することを求めるSBTイニシアチブによる認証も受けており、GHG排出削減目標との整合性について供給メーカーをモニタリングするプログラムや、供給メーカーの排出量削減に対する奨励策も設けていました。

今回評価した鉄鋼バイヤーのスコアはかなり低い数字でしたが、注目すべき具体的な優良事例もいくつかありました。 たとえば以下の通りです。

  • 摩耗部品をリサイクルするためにゴムを鉄鋼から分離する手法の開発
  • 90%リサイクル鋼材から作られた、完全にリサイクル可能で長持ちする消費財の提供
  • 鉄鋼製品の修理サービス
  • 排出量を削減するために、鉄鋼を他の材料に置き換えることの検討

重工業を脱炭素化するには、誰もが役割を果たさなければならない

フィンランドなどの北欧諸国が、ゼロ排出に近い鉄鋼生産に向けて先導的な役割を果たしているのは注目に値します。 スウェーデンのSSAB社は化石燃料フリーの鉄鋼生産の先駆企業であり、フィンランドのステンレス鋼メーカーであるオウトクンプ社は、原料に用いるスクラップ鉄について、バリューチェーン全体の排出フットプリントを最小限に抑える方法を模索しています。 しかし、フィンランドの鉄鋼バイヤー各社は、まだこの機会を捉えていません。

自動車や建設、再生可能エネルギーなどの分野では、動きの速い企業がゼロ排出に近い鉄鋼の市場を構築しつつあります。 規制環境が厳しさを増し、サプライチェーンを脱炭素化するよう企業に求める顧客や投資家の圧力が高まる中で、グリーン調達を先導する企業はさまざまな形で恩恵を受けるでしょう。 こうした企業は新しい市場を創出し、コストを顧客に転嫁することができます。なぜなら、たとえゼロ排出に近い鉄鋼を調達したとしても、鉄鋼は総生産コストに占める割合が小さい原材料だからです。

とはいえ、ほんの一握りの先駆企業だけでは、鉄鋼業界を1.5℃に沿った経路に乗せるために必要な投資が流れ込んでくるほどの大きな市場を創出することはできません。 あらゆる規模の企業がこの動きに加わり、進んでグリーンプレミアム(環境負荷を抑えるための追加費用)を負担する必要があります。

鉄鋼バイヤーには、ゼロ排出に近い鉄鋼の需要があるというシグナルを送る選択肢がいくつかあります。

  • オフテイク契約(長期供給契約):大口バイヤーにはオフテイク契約という選択肢があります。たとえばスウェーデンのスタートアップ企業で低炭素鉄鋼を生産するH2グリーンスチール社は2022年、今後生産する150万トンについてバイヤーとオフテイク契約を交わしたと発表しました。
  • 購入コミットメント:バイヤーは、特定の供給メーカーを指定せずに、将来的に低炭素鉄鋼を購入すると約束することもできます。ただし、こうしたコミットメントは目標量とスケジュールを伴うものでなければなりません。 このようなコミットメントの可能性を最大限に生かすために、企業は「スチールゼロ」のような購入企業連合に参加することができます。
  • 科学的根拠に基づく目標(SBT):サプライチェーンを脱炭素化する約束や、科学的根拠に基づくスコープ3のGHG排出削減目標の採用は、間接的なシグナルを送ることにしかならないため、ゼロ排出に近い鉄鋼生産を働きかける方法としては最も効果が小さいものです。 しかし、この分野でさえも、私たちがスコア表で評価した企業の間では大きな差異が見られました。
  • 検証:低炭素鉄鋼の需要増に対し、鉄鋼メーカーはグリーンスチールと銘打つさまざまな商品を提供することで対応しています。 鉄鋼バイヤーは、購入する鉄鋼が真に大幅な排出削減につながるものであることを検証しなければなりません。そうしなければ、グリーンウォッシュのリスクや、生産方法の脱炭素化において意味のある行動を伴わない、排出量計算のまやかしであるリスクがあります。

今こそ「真に化石燃料フリーの鉄」の革命を

鉄鋼バイヤーである企業は、鉄鋼業界をネットゼロの道筋へ導く、つまり同業界の排出量を確実に削減し、そのスコープ3排出量を削減する上で重要な立ち位置を占めています。 必要とされる手順については、提言に詳しくまとめました。

サプライチェーンの脱炭素化を開始し、鉄鋼の脱炭素化を支えるのに最適な時期は、もう過ぎてしまいました。 次なる好機は、今なのです。

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