日本製鉄

脱炭素化が急務となる気候危機の時代において、日本製鉄の石炭高炉を軸に置く戦略は経営リスクを高めることが懸念されている。
日本製鉄の示す脱炭素ロードマップでは、現在〜2030年代を技術開発に当て、本格的な排出削減は2040年以降としていることがわかる。国際的な気候対策の加速化が期待される十余年の間に、具体的な脱炭素技術は実装に至らないとしている。
また、同ロードマップでは、同社のカーボンニュートラルビジョンが発表された2021年から2030年までの排出削減のうち、84%は生産量の縮小による削減となる見込みである。生産能力を縮小することで排出削減とすることは、2024年度株主総会でも示された投資家らが期待する気候変動対策とは程遠いと言わざるを得ない。
企業概要
日本製鉄は日本で第1位、世界で第4位の規模を持つ鉄鋼メーカーである。本社を東京に置き、2023年の粗鋼生産量は4370万トンだが、今後は海外事業拡大を通じその2倍以上となる「1億トンの生産体制」を目標に掲げる。主要な顧客は国内外ともに自動車、土木・建築業界で、海外事業はASEAN諸国、中国、インド、北中南米、欧州および中東に展開している。
日本製鉄は日本の粗鋼生産の44%を占め、国内トップシェアを持つ。同社は業界の動向や政策決定に大きな影響力を持ち、日本経済団体連合会(経団連)や日本鉄鋼連盟(JISF)の役員を務める。
日本製鉄は「脱炭素の先駆者」となることを謳い、2050年までのカーボンニュートラルを目指している。しかし同社の主なグリーン技術であるCOURSE50およびSuper COURSE50と呼ばれる石炭ベースの高炉への水素注入は、排出量を30%から50%削減するにすぎない。これらの方法は石炭の使用を長引かせ、本来鉄鋼メーカーが目指すべきニアゼロ・エミッションの生産にはつながらない。
重要なことに、日本製鉄の気候変動対策はパリ協定で定められた1.5度目標に整合しておらず、投資家向けに分析情報を提供するMSCI ESGリサーチ社は、同社の気温上昇シナリオを3.2度と予想している。
日本製鉄は気候変動への責任を果たすため、以下のことを行う必要がある。
・パリ協定で定められた目標に沿った排出目標を設定する。
・COURSE50のような、石炭使用を延命させる解決策から脱却する。
・真にグリーンで革新的な製鉄技術に投資する。
スティールウォッチは日本製鉄に対し、石炭依存から脱却し、気候変動の緊急性を軸に据えた経営戦略を取り、持続可能な未来の鉄鋼業界の先駆者となることを強く求める。
基本情報
- 代表取締役社長兼CEO:橋本 英二
- 上場証券取引所:東京、名古屋、福岡、札幌
- 株主構成:日本の個人その他 32%、日本マスタートラスト信託銀行(13.6%)、日本カストディ銀行(4.8%)を含む金融機関 30.0%、外国法人等 20.6%
- 本社:東京都千代田区丸の内
- 従業員数(連結):113,639名(2024年3月31日時点)
- 年間粗鋼生産量:4370万トン(2023年)
- 年間事業利益(連結):9350億円(2023年度)
- 高炉数:10基(2025年4月1日時点)
- 電炉数:4基(2024年9月時点)
日本製鉄の「グリーンな主張」と「石炭依存リスク」
日本製鉄は2021年より、2050年ビジョンとしてのカーボンニュートラル実現を掲げ、脱炭素化を最重要経営課題の一つとしている。同社のカーボンニュートラルビジョンには、電炉製鉄や水素直接還元製鉄(H2-DRI)などの有望な技術が含まれているものの、実際には石炭を延命させる技術開発に力を入れている。
日本製鉄が重点を置くのは、COURSE50およびSuper COURSE50と呼ばれる技術だ。これらは石炭を利用した高炉への水素吹き込み等で、30%から50%の排出量削減を目指す。次世代技術であるSuper COURSE50では、CCUS(炭素回収・利用・貯留)などの組み合わせによって残余排出量を補うとしている。しかし、これらの技術を用いた排出削減の本格的な普及は2040年代になると予想されているだけでなく、CCS(炭素回収・貯留)の技術的実現性や高コストが普及の足かせとなる可能性もある。よって、2040年代にかけて高炉由来の高排出体制から抜け出せなくなるリスクを伴い、脱炭素化の加速に貢献するとは言い難い。
また日本製鉄は石炭利用を継続させるだけでなく、むしろその依存を強めようとしている。同社は石炭採掘への投資を拡大し、豪州およびカナダにおける炭鉱の保有比率を増やし、さらにUSスチール買収計画の一環として米国のゲーリーおよびモンバレー拠点での石炭ベースの鉄鋼生産への追加投資を約束した。
日本製鉄の気候変動対策に関する詳しい情報は、スティールウォッチの気候対策検証レポートを参照。
気候変動に関する重要なタイムライン
2023年8月4日
Super COURSE50が試験でCO₂排出量22%削減効果を実証
