日本製鉄

企業概要

日本製鉄は日本で第1位、世界で第4位の規模を持つ鉄鋼メーカーである。本社を東京に置き、2023年の粗鋼生産量は4370万トンだが、今後は海外事業拡大を通じその2倍以上となる「1億トンの生産体制」を目標に掲げる。主要な顧客は国内外ともに自動車、土木・建築業界で、海外事業はASEAN諸国、中国、インド、北中南米、欧州および中東に展開している。

日本製鉄は日本の粗鋼生産の44%を占め、国内トップシェアを持つ。同社は業界の動向や政策決定に大きな影響力を持ち、日本経済団体連合会(経団連)や日本鉄鋼連盟(JISF)の役員を務める。

日本製鉄は「脱炭素の先駆者」となることを謳い、2050年までのカーボンニュートラルを目指している。しかし同社の主なグリーン技術であるCOURSE50およびSuper COURSE50と呼ばれる石炭ベースの高炉への水素注入は、排出量を30%から50%削減するにすぎない。これらの方法は石炭の使用を長引かせ、本来鉄鋼メーカーが目指すべきニアゼロ・エミッションの生産にはつながらない。

重要なことに、日本製鉄の気候変動対策はパリ協定で定められた1.5度目標に整合しておらず、投資家向けに分析情報を提供するMSCI ESGリサーチ社は、同社の気温上昇シナリオを3.2度と予想している。

 

日本製鉄は気候変動への責任を果たすため、以下のことを行う必要がある。

 パリ協定で定められた目標に沿った排出目標を設定する。

 COURSE50のような、石炭使用を延命させる解決策から脱却する。

 真にグリーンで革新的な製鉄技術に投資する。

スティールウォッチは日本製鉄に対し、石炭依存から脱却し、気候変動の緊急性を軸に据えた経営戦略を取り、持続可能な未来の鉄鋼業界の先駆者となることを強く求める。

基本情報

日本製鉄の「グリーンな主張」と「石炭依存リスク」

日本製鉄は2021年より、2050年ビジョンとしてのカーボンニュートラル実現を掲げ、脱炭素化を最重要経営課題の一つとしている。同社のカーボンニュートラルビジョンには、電炉製鉄や水素直接還元製鉄(H2-DRI)などの有望な技術が含まれているものの、実際には石炭を延命させる技術開発に力を入れている。

日本製鉄が重点を置くのは、COURSE50およびSuper COURSE50と呼ばれる技術だ。これらは石炭を利用した高炉への水素吹き込み等で、30%から50%の排出量削減を目指す。次世代技術であるSuper COURSE50では、CCUS(炭素回収・利用・貯留)などの組み合わせによって残余排出量を補うとしている。しかし、これらの技術を用いた排出削減の本格的な普及は2040年代になると予想されているだけでなく、CCS(炭素回収・貯留)の技術的実現性や高コストが普及の足かせとなる可能性もある。よって、2040年代にかけて高炉由来の高排出体制から抜け出せなくなるリスクを伴い、脱炭素化の加速に貢献するとは言い難い。

また日本製鉄は石炭利用を継続させるだけでなく、むしろその依存を強めようとしている。同社は石炭採掘への投資を拡大し、豪州およびカナダにおける炭鉱の保有比率を増やし、さらにUSスチール買収計画の一環として米国のゲーリーおよびモンバレー拠点での石炭ベースの鉄鋼生産への追加投資を約束した。

日本製鉄の気候変動対策に関する詳しい情報は、スティールウォッチの気候対策検証レポートを参照。

気候変動に関する重要なタイムライン

2008年

日本製鉄が高炉への水素注入に関する初の研究プロジェクトを開始

日本製鉄、千葉県君津市でCOURSE50研究プロジェクトを開始

2019年5月27日

日本製鉄が気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を支持

日本製鉄、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を支持

2020年12月

日本製鉄が2050年までのカーボンニュートラル達成を誓約

日本製鉄、2050年までにカーボンニュートラル実現との誓約を発表

2021年3月30日

日本製鉄が「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を発表

日本製鉄がカーボンニュートラルビジョン2050を発表、脱炭素目標と技術開発を示す

2022年9月29日

日本製鉄がアルセロール・ミッタルとのインド合弁会社に高炉2基を追加

日本製鉄、AM/NS India社のハジラ工場に石炭ベースの高炉2基追加を発表

2023年8月4日

Super COURSE50が試験でCO₂排出量22%削減効果を実証

日本製鉄、千葉県君津市での試験においてSuper COURSE50がCO₂排出量22%削減の効果を実証したと発表

2024年6月21日

日本製鉄が投資家から気候関連の株主提案を受ける

日本製鉄、2024年の定時株主総会で気候変動対策の見直しを求める3件の株主提案に直面