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日本企業、次の一手は?韓ポスコ社が切り拓くグリーンアイアン投資

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Loading iron Ore on a ship at Dampier, Western Australia

オーストラリア・西オーストラリア州は、投資誘致基金「Investment Attraction Fund」の一環として、脱炭素関連の鉱業プロジェクト3件に対し、総額3400万豪ドル(約32億円)の助成金を給付すると発表した。

そのうち、韓国の鉄鋼メーカーであるポスコ社と豪Port Hedland Iron社が共同で実施する「Port Hedlandグリーンスチールプロジェクト Stage 1」に1500万豪ドル(約14億円)が給付される。このプロジェクトでは、直接還元鉄を圧縮・成型(ブリケット化)したホットブリケットアイアン(HBI:Hot Briquette Iron)を韓国へ輸送し、製鋼工程に使用する計画である。

昨今の分析では、輸送可能なグリーンアイアン(green iron)を鉄鋼メーカーの脱炭素化戦略に組み込むことで、ニア・ゼロエミッションへの移行を加速させ、コスト効率も向上すると示されている。日本や韓国のように現在鉄鉱石を輸入している国々は、製鉄工程を鉄鉱石と再生可能エネルギー資源が豊富な地域に移すことで、グリーン水素の輸送にかかるコストや技術的な課題を回避できる。スティールウォッチの分析によると、HBIを輸入することで、原料である水素と鉄鉱石を個別に輸入する場合と比べ、輸送容量を約75%削減できることが明らかとなっている1。

ポスコ社はオーストラリアでのグリーンアイアン生産への投資を戦略的に進めており、今回の助成金獲得もその一環である。同社はPort Hedlandに最大270億豪ドル(約2兆5600億円)規模のグリーンアイアンプロジェクトを検討しており、最終的には年間1,200万tのHBIを生産する計画である。これは単発の取り組みではなく、長期的な視点で市場と政策を見据えた動きであることが明白である。

一方で、このプロジェクトには課題もある。現時点の計画では、HBI生産の還元プロセスにLNG(液化天然ガス)を使用し、「将来的に」グリーン水素に移行するとされている。この点については評価が分かれる可能性があり、「短期的に天然ガスを容認すべきか」「本当にグリーン水素へ移行するのか」といった議論が続いている。

ポスコ社の積極的な投資は、日本の鉄鋼業界にとっても大きな示唆を与える。日本製鉄をはじめとする日本企業は脱炭素技術への取り組みを主張しているものの、実際の投資としての展開は限られている。しかし、市場の動きを見る限り「技術開発」だけでなく「具体的な投資」と「早期の導入」が求められていることは明らかだ。韓国の大手鉄鋼メーカーがオーストラリア政府の政策支援を活用しながら、戦略的に市場での優位性を確保しようとしている中、日本企業もプロジェクト推進に向けた明確なアクションを示す必要がある。南オーストラリア州をはじめ、グリーンアイアンに関する投資が可能な機会は他にも存在する。

世界の鉄鋼業界は、脱炭素化に向けた投資競争の新たな局面を迎えている。オーストラリアや韓国が積極的に動く中、日本企業はどのような立場を取るのか。日本企業の次の一手に注目が集まる。

  1. 年間250万tの直接還元鉄を生産するプラントを稼働させるには、約13万5000tのグリーン水素と360万tの鉄鉱石ペレットが必要となる。輸送容量は、グリーンアイアンがホットブリケットアイアン(HBI)としてで輸送され、水素が液体水素として輸送されることを前提に、以下の密度に基づいて計算されている。
    HBIの密度:2.5~3.3 t/m3
    鉄鉱石ペレットの密度:2.2 t/m3
    液体水素の密度:0.07 t/m3
    この試算によると、DRIプラントへ水素と鉄鉱石を個別に輸入する場合、必要な輸送容量は合計350万m3となる。一方、海外のDRIプラントで生産されたHBIを輸送する場合、必要な輸送容量は75万~100万m3に抑えられる。つまり、水素と鉄鉱石を別々に輸送する場合、HBIとして輸送する場合と比べ、推定で3.5~4.7倍の輸送容量を要することになる。(スティールウォッチ試算、2025年)

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