鉄鋼メーカー脱炭素に求められる行動 その基準を明らかに
鉄鋼業界は「鉄鋼産業の排出削減は困難だ」との立場を長年守り続け、その不十分な気候変動対策への責任を問われることが限られていた。また、緊急性を伴う脱炭素化への取り組みとは、具体的にどのような行動を指すのかを精査するのは難しく、企業データは複雑な報告書や断片的な情報開示に埋もれ、実際に進展を見せている鉄鋼メーカーがどこか、把握することは困難だった。これらの課題を払拭するために発表された新ツールは、主要鉄鋼メーカーの脱炭素に向けた進捗を比較分析し、気候危機下に求められる行動を明らかにする。
本日、スティールウォッチは初となる鉄鋼企業スコアカードを発表した。
世界の主要鉄鋼メーカー18社を対象に、脱炭素化へ移行していくための構造的な準備がどの程度整っているのか、同一の指標に基いて比較、評価する初の試みだ。
このスコアカードは、公開情報や企業報告をもとに、アジア、欧州、南北アメリカなど11カ国に本社を置く、地理的に多様な鉄鋼メーカー間の比較を可能にする。移行に必要な構造的変化を評価するために選定された21の指標を用いて、各企業を評価した。鉄鋼メーカーが排出削減目標を掲げ、気候変動対策を公表することは一般化しつつある。しかし、このスコアカードはそれにとどまらず、現時点での気候変動対策実績、最近の動向、そして将来への備えと、過去、現在、将来への対策を複合的に検証している。
このスコアカードは、気候危機に直面する我々全てが抱くべき緊急性を、鉄鋼メーカーの経営陣が共有しているとするなら、どのような決断や選択を行うべきか、その明確な基準を示すものでもある。長年続く高排出体制から脱却し、難しながらも未来に向けて大胆な投資決断を下すことこそが、本スコアカードにおいてより高い評価を得る、唯一の道だ。
どの企業も不十分との結果に
スコアカード初版の調査結果は、厳しい現実を突きつけるものだ。18社中、100点満点で50点を超える企業は1社もなく、大半が20点台に集中し、中央値は27点だった。
このスコアカードは「移行レディネスギャップ」を浮き彫りにし、移行に向けた構造的な準備体制がどれほど整えていないかを明らかにするとともに、このギャップを埋めるためにどれほど迅速に行動すべきか、警鐘を鳴らしている。
気候目標、再生可能エネルギー(再エネ)の導入、企業報告の透明性、社会的責任の面で依然として課題が残る中、最も進展を阻む要因は、石炭への依存とグリーンアイアン導入の遅れだ。
評価対象となった18社は、合わせて75基の石炭原料高炉を稼働させている。高炉からの排出量は、通常、製鉄プロセスにおける排出量の約90%を占めることから、これは大きな課題だ。18社中4社以外は、調査対象期間に高炉のリライニング改修などの再投資を発表もしくは実施している。
グリーンアイアンの導入は、石炭からの脱却の進展よりもさらに限定的な状況にある。初期段階の実証試験の発表は、エネルギー転換が求める規模やスピードの変革にはまだつながっていない。グリーンアイアンと再エネ導入を評価するカテゴリーでは、25点満点のうち中央値は1点未満であり、半数の企業が0点となっている。
2050年までのネットゼロ目標といった、前進と捉えられるシグナルは評価対象企業の間で一般的ではあるものの、構造的な変化を可能にする実行動に裏付けられていない。限り、目標と実行の間にある、大きなギャップを浮き彫りするに過ぎない。
企業の意思決定が鍵を握る
対象全社に共通して絶対的なスコアは低いものの、相対的な差は依然として重要であり、これは各社の判断で移行に向けて前進できることを示している。
SSAB(スウェーデン)は他社より先行している。これは、石炭を原料とする鉄鋼生産からの明確な脱却、高炉の廃止時期の具体化、そして将来の戦略と既存の投資との整合性の向上を反映している。
その次に、石炭依存からの脱却に向けた明確な方針を有するティッセンクルップ(ドイツ)が続き、方針の実行が残された課題となっている。
その後は、断片的な進展を続ける集団が群れをなして続いており、最後尾では、いくつかの大手メーカーが出遅れている。日本製鉄、現代製鉄(韓国)、ポスコ(韓国)、およびHBIS(中国)は、石炭への依存度が特に高く、情報開示が不十分であったり、明確な移行計画に欠くことから低いスコアにとどまっている。
このスコアカードは、あくまでスタート地点
ここ数年のうちに、高排出産業の一つである鉄鋼業界は、脱炭素化に向けて断固たる行動を起こさなければならない。部分的な取り組みでは不十分であり、移行を進めるためには目標設定から実行へと迅速にシフトする必要があある。
本年度版スコアカードは、先日発表した「鉄鋼企業移行トラッカー」で取りまとめた、2025年末までに公開された2021~2024会計年度の企業データをもとに評価を行った。
今回スコアカードに反映されなかった、最新なさまざまな動向もある。例えばその中には、宝山鋼鉄(中国)がグリーン水素使用に転換可能な直接還元製鉄(DRI)施設開発を検討していることや、ティッセンクルップのDRI建設プロジェクトなど、前向きな進展も見られる。一方で、日本製鉄が、買収したUSスチールの高炉のリライニング改修を先日決定するなど、石炭依存を強める懸念すべき発表も見受けられる。
最終投資決定(FID)が下され、新たな情報が明らかになるたび、スティールウォッチは各鉄鋼メーカーの実績を引き続き追跡、再評価し、今後はスコアカードを用いて、年次ごとの進捗をつぶさに追っていく。