「グリーン購入法基本方針改定案」へのスティールウォッチの見解
日本において「グリーン」な鉄鋼製品の市場を推進するには、買い手が低炭素製品に対価を支払うという意思を示すことが一つの重要要素として挙げられる。日本政府は、主要な鉄鋼の買い手として、グリーン購入を通じて、市場形成を促し、低炭素技術への投資を後押しすることができる。
日本において「グリーン」な鉄鋼製品の市場を推進するには、買い手が低炭素製品に対価を支払うという意思を示すことが一つの重要要素として挙げられる。日本政府は、主要な鉄鋼の買い手として、グリーン購入を通じて、市場形成を促し、低炭素技術への投資を後押しすることができる。
日本国内の大手鉄鋼メーカーは2030年代を迎える前に、石炭を使用した高炉を延命させるか、再エネ電力を使用した水素直接還元鉄と電炉(H2-DRI-EAF)によるニア・ゼロエミッションの鉄鋼生産に投資するかという決断を迫られる。このような状況において、今回のグリーン購入法改定案にて鉄鋼製品が明記されたことを歓迎する。
一方で、グリーン購入を促進する上で以下の要件を満たす必要がある:
- 他社に先駆けて脱炭素技術に投資した企業を正当に評価すること
- 大幅な排出削減が可能な鉄鋼生産への投資を促進すること
- わずかな排出削減しか達成していない排出原単位の高い生産方法を除外すること
- 政府が率先して低炭素製品を調達することで、他の買い手への需要を促すこと
スティールウォッチは、現行のグリーン購入法の改定案では、これらの要件を達成するには不十分であると考える。鉄鋼は国際的に取引されている商品であり、日本の鉄鋼メーカーが生き残るには、買い手のニーズに応え、欧州のようなカーボンプライシングが導入されている地域でも競争力のある価格で販売できるよう、鉄鋼生産の脱炭素化を進める必要がある。そのため、低炭素鉄鋼の定義については、さらなる検討が必要であり、グリーン購入法の最終的な改定を延期し、より多くの情報や意見を集めることを推奨する。
第一に、環境省に対し、公共調達においてマスバランス方式を採用しないよう求める。改定案では、日本鉄鋼連盟のマスバランス方式が参照されているが、これは、買い手にとって意味のあるもの、あるいはスコープ3排出量の削減に役立つものとして受け入れられる可能性は低い。特にこの手法は、SBTi 企業ネットゼロ基準のような国際基準では認められていない。国際エネルギー機関(以下、IEA)は、ニア・ゼロエミッションは「物理的」であるべきだとしており、「サプライチェーン外からの排出量のオフセットや、複数の生産ユニットおよび/またはサプライチェーンにまたがる排出削減クレジット/証書の集約は、ニア・ゼロエミッションの認定には認められない」としている。
鉄鋼連盟の推奨する「企業ベース」のマスバランス方式は、まさに上記の国際基準に反するものである。この方式では、組織内のどこで発生した排出削減量でも蓄積し、任意の製品に仮想的に割り当てることができる。日本製鉄とJFEスチールは、いずれもこの方式を採用している。すなわち、これら高炉での鉄鋼生産を主とする鉄鋼メーカーが、既存の生産工程(特に炭素集約度の非常に高い高炉)からのわずかな削減量を仮想的に蓄積し、石炭を原料とした鉄鋼を低炭素鉄鋼としてブランド化できるということを意味する。また、鉄鋼メーカーは、電炉と高炉といった、全く異なる生産方法からの排出削減を混合することも可能である。さらに、土地保護や社員食堂の食品廃棄物削減による排出削減を主張し、それを低炭素鉄鋼製品に割り当てるという不合理なシナリオも想定できる。これらの手法はいずれも、既存の生産工程の総排出量や排出原単位の削減に実質的に貢献するものではない。排出削減量は限定的であるにもかかわらず、企業はこうした鉄鋼製品に高いプレミアムを求めている。
このような鉄鋼メーカーの自己認証製品へは、グリーンウォッシュとして監視の目が向けられている。2024年6月、韓国環境部は、ポスコのマスバランス製品である「Greenate Value Chain」の広告に対し、石炭を使用して生産されている製品に関して排出削減を誇張しているとして行政指導を行った。
国際的な買い手は、日本のマスバランス製品にグリーンプレミアムを支払わないであろうとスティールウォッチは考える。その理由として、国際的な買い手がマスバランス製品において主張されている排出削減量を認めていないこと、買い手自身もグリーンウォッシュの非難を浴びる可能性を懸念していること、そして競合他社であるグローバルな鉄鋼メーカーがより実質的な排出量削減効果のある低炭素製品を提供していることなどが挙げられる。
第二に、環境負荷の軽減、特にパリ協定に基づく1.5度目標に沿った排出削減を確保するために、政府が定めるグリーン調達の基準において、厳格な最低限の排出削減量の水準を設定する必要がある。この水準を時間軸に沿って強化することで、調達される低炭素鉄鋼製品がすべてニア・ゼロエミッションの水準に到達するまで、排出量を削減する必要を明示することが重要である。また、鉄鋼メーカーに対し、ニア・ゼロエミッションの鉄鋼製品を生み出す新たな技術やグリーンサプライチェーンへの投資を促す明確なシグナルを送る必要がある。さらに、使用されるスクラップの割合を考慮に入れ、スクラップ鉄を原料とする生産者と、鉄鉱石を原料とする生産者の双方が真剣に脱炭素化に取り組めるよう、適切なインセンティブの提供を推奨する。
最後に、政府が定めるグリーン購入法は、実質的にニア・ゼロエミッションの鉄鋼生産のみを奨励するべきである。これは、鉄鋼メーカーの最終的な投資判断を後押しし、低炭素技術の普及を加速させる。特に、今後3年以内に世界的な実用化が見込まれる水素直接還元製鉄(H2-DRI)など、新たな脱炭素化技術に投資する鉄鋼メーカーを正当に評価することにつながる。
スティールウォッチ(SteelWatch)は鉄鋼セクターにおける気候変動対策を促進することを目的とし、2023年7月に設立された国際NGOです。
参考文献:
自然エネルギー財団, “グリーンスチールの市場形成にむけて:マスバランス方式活用の課題と条件”
自然エネルギー財団, “ [財団見解] グリーンスチールの市場形成に真に貢献する基本方針改定を求める:マスバランス製品の脱炭素性能の明確化を(グリーン購入法基本方針改定案)”
Solutions for Our Climate, “POSCO Profile No. 2 – The Journey Toward Greenwashing: Greenate”