アルセロール・ミッタル社2025年度株主総会の議事録 気候変動対策リーダーシップからの後退を裏付ける
アルセロール・ミッタル社は、2025年5月6日にルクセンブルクで開催された定時株主総会の議事録を公開した。この議事録には市民社会団体などからの質疑への応答が含まれており、それらは、同社の広報活動に反して、気候変動対策におけるリーダーシップからの後退を意味するというスティールウォッチによる以前からの警告を裏付けている。
アルセロール・ミッタル社は、2025年5月6日にルクセンブルクで開催された定時株主総会の議事録を公開した。この議事録には市民社会団体などからの質疑への応答が含まれており、それらは、同社の広報活動に反して、気候変動対策におけるリーダーシップからの後退を意味するというスティールウォッチによる以前からの警告を裏付けている。
アルセロール・ミッタル社は、株主総会の議事録の中で、「2030年目標を達成する可能性はますます低くなっている」と認めており、その理由として「現時点において今後5年間でどれだけ速く排出量を削減できるか有益な予測を立てるには、あまりにも不確定要素が多い」としている。脱炭素化目標の見直しは「政策環境がより安定した時にのみ」行うとしている。
気候リーダーシップではなく、戦略的撤退
スティールウォッチの「Backtracking on Climate Action ArcelorMittal Corporate Climate Assessment 2025 Update」が示すように、アルセロール・ミッタル社は脱炭素に関する戦略、予算、そして実行動を大幅に縮小している。加えて、同社は脱炭素化推進に必要な条件を政府や市場が整えるまで待つ受け身の姿勢を示し、早急な気候行動よりも規制の確実性や利益性を重視する立場を取っている。しかし、アルセロール・ミッタル社は、市場にただ従う存在ではなく、市場を形成する立場にある。市場を形成し、イノベーションを加速させ、低排出鋼材の需要を喚起する規模の資産と影響力を持っている。
今年4月に公表されたスティールウォッチの報告書では、2021〜2024年の間、アルセロール・ミッタル社が営業キャッシュフローのわずか2.5%未満(8億米ドル)しか脱炭素化への投資に充てていなかったことが明らかになった。同社の気候変動対策を示す「Climate Action Report」の第三版の発表は2021年以降更新を先送りされており、2025年の株主総会においても示されず、反して気候目標の後退の可能性が示唆された。
アルセロール・ミッタル社は兼ねて「政策が動かなければ脱炭素化を進めることはできない」としてきた。が、これら気候対策の後退は、欧州における政策への進展があったにもかかわらず起きている。2025年3月、欧州委員会は「鉄鋼・金属行動計画」(Steel and Metals Action Plan)を発表し、併せて炭素国境調整措置(CBAM)の見直しも行った。これらの施策は、気候規制が緩い国からの輸入によってEUの鉄鋼メーカーが不利にならないよう支援することを目的としている。アルセロール・ミッタル社はこれらの動きを公に歓迎したが、高い電力コストや政策実施の不透明さを理由に、自社の脱炭素戦略への本格的な投資を依然として見送っている。
スティールウォッチがアルセロール・ミッタル社の株主総会に向けて提出した書面質問では、今後の本格的な脱炭素化に向けてどのような戦略を試みているのかを問いかけた。その回答において、フランス南部ロゼール県サン・シェリー・ダプシェでの実証プロジェクトのような直接還元鉄法(DRI法)向けの鉄鉱石の拡大や、カナダ・ケベック州コントルクール工場でのH₂-DRIの初期試験について一定の詳細が示されたのは前向きな点である。しかし、これらの取り組みだけでは不十分である。
最も懸念すべきは、高炉の段階的廃止に関するスティールウォッチからの質問に対し、同社が「高炉は今後の脱炭素化ポートフォリオの一部であり続けると考えている」と明言した点である。これは、石炭の廃止が計画に含まれていないことを裏付けている。
被害を受けるコミュニティ、さらなる対応を強く要求
スティールウォッチは一株を保有する株主として、地域の代表者らとともに株主総会に出席した。彼らは西アフリカ・リベリア、東欧・ボスニア・ヘルツェゴビナなどから同社の保有する炭鉱や製鉄所に隣接するコミュニティの代表者で議決権の代理行使権を持ち、環境被害、人権侵害、そして実質的な協議の欠如に関する深刻な主張を提起した。
メキシコの代表者からは、昨年以降「対話が進まなかった理由」を問う質問が出され、これに対し執行副社長のブラッド・デイビー氏が「これらの課題に対応するため、より正式なコミュニケーションの仕組みを構築する」と回答したことは歓迎すべきことである(この発言は公式の株主総会議事録ではなく、株主総会に参加していたスティールウォッチの記録に基づく)。
株主総会後には、同社が地域代表者を招く形で別途会合が持たれ、より正式なコミュニケーションが確実に必要であることを明確に伝え、その構築に向けた一歩が踏み出された。しかし残念なのは、過去10か月間に送付された5通の書簡やメールに対しなぜ返答が全くなかったのかというフェア・スチール・コアリション(スティールウォッチも所属する鉄鋼業界に公正さを求めるNGOネットワーク)からの質問に対し、書面回答が直接的に答えていないことである。
地域の代表者が生活や生計が破壊されているという現実を報告する際、企業はそれを真摯に受け止め、行動することが求められる。株主総会の議事録には、リベリアの代表者からの質問が記録され、同社の方針が現場の実態とは異なっていることをはっきりと指摘しており、「同社は年次報告書で、安全と人権に関する自主原則を遵守していると主張しているが、実際には、リベリアの現場においてそれは事実ではない」としている。これらの発言は同社の経営幹部に直接伝えられ、現場で起きている現実は、面倒な干渉ではなく、重要な情報として扱われる必要があることを改めて強調した。今後は、継続的で意義のあるコミットメントと説明責任が不可欠である。
気候コミットメントより自社都合を優先する明確なシグナル
アルセロール・ミッタル社は、2030年の気候目標を放棄しようとしていると同時に、自社の事業の影響を受けるコミュニティへの被害を軽視している。自社の利益都合を優先し、気候科学や地域の声に対して無責任な姿勢姿勢は、企業としてリスクをはらむ。
同社は信頼に値する気候コミットメントを示し、科学的根拠に基づく目標を設定し、脱炭素化に向けた実質的な投資を今こそ行うべきである。同時に、ボスニア・ヘルツェゴビナのゼニカからリベリアのイエケパに至るまで、影響を受ける人々に対して透明性と説明責任を果たさなければならない。
気候変動対策リーダーシップとは、対応を先送りするのではなく、今必要とされる行動をとることだ。スティールウォッチと、広がりつつある地域コミュニティ、投資家、市民社会組織によるムーブメントは、今後もアルセロール・ミッタル社に責任を問い続ける。
執筆:サム・ダニエル