アルセロール・ミッタル
アルセロール・ミッタル社はその鉄鋼生産量が世界トップ3に入る規模を持つ鉄鋼メーカーであり、 欧州内では鉄鋼関連における最大の排出源である。同社は年間1億トンを超えるCO₂を排出しており、これはベルギーの排出量に匹敵する。かつては気候変動対策において主導的な立場を取っていたが、近年は脱炭素化の取り組みが停滞し、実質的な変革よりも株主への利益還元を優先している。

これまでの気候変動対策の実績が、アルセロール・ミッタル社の脱炭素化への本気度を示している。
- 2018年以降、 同社のCO₂排出原単位はわずか5%しか減少しておらず、これは自社が掲げる2030年目標を大きく下回るものであり、 気候危機を抑えるために必要とされる水準には到底及ばない。
- 長らく先延ばしされている同社の気候戦略を示す「クライメート・アクション・レポート3 (CAR 3)」は未発行のままで、中長期的戦略を欠いたまま、過去の気候目標の公約を後退させる可能性を示唆している。
- 35億米ドルの補助金を確保しながらも、欧州4カ国およびカナダにおける直接還元鉄(DRI)生産プロジェクトについて、いまだ1件も最終投資決定を下していない。
- 2021年から2024年までに上げた326億米ドルの営業キャッシュフロー(企業の本業による儲け)のうち脱炭素化に使ったのはわずか2.5%にとどまる。
- 一方で、2021年から2024年にかけて120億米ドルを株主に還元し、2024年だけで自社株買いに13億米ドル、配当に3.93億米ドルを充てた。同社の経営陣を占めるミッタル家は合計44.25%の株式を保有している。
企業概要
アルセロール・ミッタル社は、2007年に当時世界最大級のミッタル・スチール社アルセロール社の敵対的買収(総額330億米ドル)を経て統合、設立された企業である。
ルクセンブルクに本社を置き、現在は60か国で事業を展開。欧州、アメリカ、アフリカ、アジアの18か国において鉄鉱石の採掘、製鉄、製鋼の各工程を運営する。
2023年、同社は鉄を4920万トン、粗鋼を5810万トン生産したが、2024年の生産は鉄4780万トン、粗鋼5790万トンへと減少した。
アルセロール・ミッタル社は、CO₂排出の主要な原因である石炭を利用した高炉・転炉法(BF-BOF)に大きく依存している。年間のCO₂換算排出量は1億トンを超え、同社は気候変動の加速と公衆衛生への悪影響に深く関与している。
基本情報
CEO:アディティヤ・ミッタル
所有構造:ラクシュミ・N・ミッタルとウシャ・ミッタルは、39.81%の株式と44.54%の議決権を保有する主要株主である(2025年4月30日現在)
本社所在地:ペトリュス・ビル(ルクセンブルク市)
年間粗鋼生産量: 5790万トン(2024年)
従業員数:126,756人(2023年12月時点)
年間売上高:624億米ドル(約9兆6,720億円、2024年)
気候変動対策
アルセロール・ミッタル社に対し脱炭素化へのプレッシャーが高まる一方、進展を示していない。2030年目標は1.5度目標と整合せず、Scope3排出の削減目標も未設定のままである。粗鋼生産量1トンあたりのCO₂排出原単位は2018年以降わずか5%しか削減されておらず、自社が掲げる2030年までの削減目標(世界全体で25%、欧州で35%)を大きく下回っており、気候科学の要請には到底及んでない。
同社が最後に発表したクライメート・アクション・レポート(英語)は2021年のものであり、2024年中に改訂版を出すとの約束は守られていない。これは同社の気候戦略に重大な疑念を生んでいる。2025年4月公表の「サステナビリティ・レポート2024」(英語)では、脱炭素技術の導入スケジュールが大幅に見直され、これらの技術が商業的に実用化されるのは2030年代になるとの見通しが示された。
2024年、同社は排出削減に不可欠とされる水素還元鉄(H₂-DRI)の導入計画について、2020年に掲げた方針を撤回した。
年間1億トンを超えるCO2を排出しているにもかかわらず、アルセロール・ミッタル社は欧州およびカナダにおける主要なDRIプロジェクトの最終投資決定をいまだ下しておらず、理由に政策および技術に関する不確実性を挙げている。
端的に言えば、同社の方針は気候対策の加速よりも遅延を容認し、気候変動対策におけるリーダーシップよりも株主の利益確保を優先している。
気候変動に関する重要なタイムライン(リンクにある情報元はすべて英語)
2008年7月28日
初の「コーポレート・レスポンシビリティ・レポート2007:『未来を変える責任を担う』」を発行
同報告書では、環境分野への多額の投資が詳述され、環境対策に3億600万米ドル、再生可能エネルギーを中心とした研究開発に2億1400万米ドルが割り当てられることが示された


2009年7月20日
「コーポレート・レスポンシビリティ・レポート2008:私たちはどうやって安全で持続可能な鉄鋼を実現するのか?」を発表
同報告書では、2020年までにCO₂排出量を8%削減するというコミットメントを明記
2010年5月11日
「コーポレート・レスポンシビリティ・レポート2009:安全で持続可能な鉄鋼に向けた進捗」を発表
2007年を基準年として2020年までにCO₂排出量を8%削減するという目標(鋼1トンあたり170kgの削減に相当)が改めて強調される


2019年5月
初の「クライメート・アクション・レポート」を発行
https://corporate-media.arcelormittal.com/media/hs4nmyya/am_climateactionreport_1.pdf
2020年6月
欧州における気候行動に関する報告書「クライメート・アクション・ヨーロッパ」を発表
https://corporate-media.arcelormittal.com/media/yw1gnzfo/climate-action-in-europe.pdf


2021年7月
第2版となる「クライメート・アクション・レポート2」を発表
https://corporate-media.arcelormittal.com/media/ob3lpdom/car_2.pdf
2024年11月26日
欧州における脱炭素化計画の最新情報を発表。
同社は「水素対応型」DRI-EAF(直接還元鉄-電気炉)設備について、政策環境に「完全な見通し」が得られるまで最終投資決定を行わないことを表明。


2025年4月17日
「2024年サステナビリティ・レポート」を発行
この報告書では、安全、脱炭素化、環境、生物多様性、人材といった、同社にとって最も重要なサステナビリティ課題に関する最新情報が示された