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USスチール買収は日本製鉄の脱炭素化への遅れを決定的にするリスク

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Nippon Steel Kyushu works Yawata area in Kitakyushu-City, Japan.
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解説: この論説は、2024年1月9日に日本語で発表された記事に基づいて作成されたものである。

昨年末に発表された日本製鉄によるUSスチール買収は、日本製鉄、鉄鋼業界、そして日米双方の脱炭素化計画にとって重要な転換点となる。 日本製鉄にとっては巨額の支出であり、また日本のトップ鉄鋼メーカーから世界のプレイヤーへの戦略的転換を示すとともに、同社が鉄鋼業界の脱炭素化の足かせとなるリスクもはらむ。

解説: この論説は、2024年1月9日に日本語で発表された記事に基づいて作成されたものである。

昨年末に発表された日本製鉄によるUSスチール買収は、日本製鉄、鉄鋼業界、そして日米双方の脱炭素化計画にとって重要な転換点となる。 日本製鉄にとっては巨額の支出であり、また日本のトップ鉄鋼メーカーから世界のプレイヤーへの戦略的転換を示すとともに、同社が鉄鋼業界の脱炭素化の足かせとなるリスクもはらむ。

日本製鉄は粗鋼生産量で世界第4位の鉄鋼企業で、10基の高炉を稼働している。 他方、同社は主に国内の鉄鋼メーカーであったため、気候変動対策への取り組みへの遅れが世界からとりわけ注目されることはなかった。 しかし今回の買収によって同社は第3位の鉄鋼企業になると見られており、そのポートフォリオには合計で18の高炉が計上され、気候変動への対策の遅れがますます露呈し、問われることになるだろう。

ドバイで開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で示されたように、いかなる産業界も、排出量削減のための緊急かつ不可避な行動を無視したり、遅らせたりする余裕はない。 鉄鋼業界の排出量は現在、世界の温室効果ガス排出量の7%以上を占めており、このセクターの排出削減は気候変動と競争力の両方にとって急務である。

日本製鉄は、カーボンプライシングへの反対、また再生可能エネルギーの拡大に否定的な立場をとっているため、日本、インド、韓国企業の中で気候行動のワーストパフォーマーと認定されている。 同社はカーボンニュートラルビジョンを掲げ脱炭素化を高らかに宣伝しているが、その行動の実態は、事業の脱炭素化のための現実的な計画というよりも、単なる宣伝用であることを示している。

日本製鉄は「サステナビリティレポート2023」において2013年比の排出量削減について報告しているものの、これは需要減少による炉の閉鎖が理由である。 排出原単位(鉄鋼1トン当たりのCO2排出量)はほぼ変わっていない。 さらに同社は2040年までの排出削減行動をほとんど検討しておらず、その結果、地球温暖化の2.4度上昇という悲惨な数値に沿った計画となっている。

また、USスチール買収は、石炭を利用した高炉にさらに依存することを意味する。 石炭を利用した鉄鋼生産は、ラインから排出される鉄鋼1トンあたり2トン以上のCO2を大気中に放出する。 これは、気候危機にさらされる世界では、まったく持続不可能だ。

日本製鉄が変化を選択しなければ、何十年にもわたって制御不能な炭素排出が続き、国の気候変動対策にブレーキがかかり、大気汚染の影響を受けている地域社会の健康と生活が脅かされることになる。 さらに世界がネット・ゼロになるとされる2050年になっても、同社はSuper COURSE50で高炉を稼働させる計画だ。この技術でも、高炉の排出量をせいぜい50%削減する程度にしかならない。

日本製鉄が石炭を中心に据えることは、 昨年11月に発表されたカナダの製鉄用原料炭事業への投資を見ても明らかである。 さらに今回のUSスチールの買収により、日本製鉄のポートフォリオには国内で操業する10基の高炉に加え、8基の高炉(うち6基は米国で操業中)が加わることになる。 日本最大の高炉メーカーであった同社は、世界最大の高炉メーカーの一つになりつつある。これは、排出量の大幅削減が避けられない世界情勢の中で、評判と座礁資産の大きなリスクとなる。

今回の買収は気候対策の遅れを米国に輸出するリスクがある一方、日本製鉄が汚染に責任を持ち、プロセスを近代化・クリーン化して真に環境に配慮した鉄鋼業界のリーダになる機会にもなり得る。 USスチールは責任ある鉄の原料調達と生産に関する世界的枠組「レスポンシブル・スチール」のメンバーであることから、今後は会員になり、スクラップベースの生産技術を学び、認証された鉄鋼へと急速に移行することができるだろう。

日本製鉄は、事業の将来性を確保しつつ、気候変動対策の阻害要因ではなく推進要因となるために、日本、米国、そして世界のあらゆる高炉において、石炭を使用しない生産への移行計画を早急に策定する必要がある。 グローバルな鉄鋼企業であることは、グローバルな責任を伴う。 今こそ、石炭依存の気候変動後進国から、真の国際的ロールモデルへと軸足を移す時なのだ。

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