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なぜ急ぐ必要があるのか? 危機感がなければ鉄の脱炭素化は進まない

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Source: Nippon Steel Youtube channel (2022)

スティールウォッチのディレクターであるキャロライン・アシュリーは、脱炭素化についての鉄鋼企業の危機感のなさとグリーンウォッシュに異議を唱える。そして、パリ協定との整合をあきらめないためには急ぐ必要があることを説明し、スティールウォッチを紹介する。

鉄鋼業界の脱炭素化は、2021年に英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)以降、注目を集めています。しかし「注目」は「行動」ではありません。

残念ながら、進展は微々たるものです。しかし、独創的な発明やそこここに提示される2050年目標があたかもすばらしい進展であるかのように見せる、業界の都合に合わせた「心地よい言葉」を聞いていたのでは、進展の遅れがわかりません。だから、現実を確認しましょう。

鉄鋼業界が気候に及ぼす影響について、現実に目を向けよう

世界の温室効果ガス年間排出量の7~8%を占める鉄鋼業界の大規模な行動なくして、炭素ゼロの経済を実現することはできません。

この20年間を振り返ると、鉄鋼業界の排出量は、間違った方向に大きく伸びています。2000年以降、直接排出量は倍増しました。それどころか、鉄鋼は産業界の中でCO2排出レベルが最も速く増加している部門なのです。

革新的な試験事業に関する話題には事欠きません。しかし今後を展望すると、鉄鋼業界は、いまだに地球を守る方向ではなく、地球を焦がす方向に進んでいます。排出量がピークに達したような兆しはまだ見られません。これまでに発表されている排出削減の総量では、とても1.5℃の道筋に整合することはできないのです。
鉄鋼生産大手60社の、現在の温室効果ガス排出削減目標に関する最新評価によると、(たとえその目標が完全に達成されたとしても)2030年までに2019年比でわずか6~12%の削減にしかなりません。これは鉄の脱炭素化の道筋における25~50%削減という目標をはるかに下回るものであり、IPCCが呼びかける2030年までに世界全体で48%の排出削減という目標に遠く及びません。これら企業の目標では2050年までに36~50%しか排出量を削減できず、ネットゼロを達成できません。

出典:独シンクタンク New Climate Institute, 20221
世界中の温室効果ガス排出削減目標による、CO2排出削減の可能性(ベースラインシナリオ比。鉄鋼生産大手60社の今後の推定値に基づく)。
凡例:
黒 = 過去の推移(モデルに基づく推定)
オレンジ = ベースラインシナリオ
灰色 = 目標値に基づくシナリオ
2030年と2050年の矢印は鉄鋼企業の意欲と世界の目標との間の隔たりを表す。

進む道筋を変えるための7年間

今後7年間は、気候変動に取り組む上で極めて重要な時です。それなのに、鉄鋼業界は2030年の緊急性に目を向けていません。この姿勢を変える必要があります。

今、しきりに語られているのは、間違った問いに対する答えです。「数年前に比べたら良くなっているのか?」といえば、確かに進歩はしています。少なくとも、鉄鋼生産((New Climate Institute, Decarbonising Global Steel Production: Tracking Progress. 2022. Page 8))の34%を占める26社が温室効果ガスの排出削減目標を掲げており、世界初のグリーンスチール(温室効果ガスが発生しない、または排出量が極めて少ない方法で製造された鉄)が製造・販売され、ボルボのトラックに使用されています。「業界他社よりも先を行く会社はあるか?」と問えば、答えはイエスで、先頭を行く会社は動きの鈍い会社よりもずっと進んでいます。

しかし、グリーンスチールへの移行は、技術、投資、そしてバリューチェーンの転換を必要とします。少しずつ変化していけば十分だという今の考え方を受け入れていたのでは、この転換は起こりません。「昨年より良い」ならば十分だと、企業が私たちに保証するのを許していては、転換は起こらないのです。 

鉄の気候フットプリントの主因は、石炭への依存です。鉄鋼の70%は石炭を使用する高炉による生産工程を通して作られるものであり、鉄鋼業界の排出量の86%もこの工程に由来します。鉄鋼各社は、2020年代のうちに石炭からの脱却に向けて入念に計画を立て投資をする必要があります。それなのに、各社は石炭を使う工程の効率をほんのわずかに高めるためにあくせくしているように見えます。

技術的に見て、石炭を超える選択肢はどんどん増えており、市場に登場しつつあります。仮定条件や、意欲、投資、政策対話がそれに追いつき、鉄鋼産業における石炭について、超えてはならない一線を引く必要があるのです。

どんな問題であっても、それを作り出した時と同じ考え方をしていたのでは解決できない

アインシュタイン

企業によるグリーンウォッシュは危機感を喪失させるものであり、行動につながらない

企業のウェブサイトやサステナビリティ報告書を読んだら、鉄鋼が気候変動を引き起こしているなどと思わないでしょう。東京メトロに乗れば、緑の地球についての日本製鉄のまばゆい動画広告を見ることができます。動画では、同社のミッションは「水素のちからで鉄をつくる」ことだと言い、「CO2排出量実質ゼロ」、「出るのはきれいな水のみ」だと謳っています。

出典:日本製鉄のYoutubeチャンネル(2022)日本製鉄の広告動画から得た画像に「グリーンウォッシュ」の文字を重ねたもの

水素のちからで? 本当に? 業界をリードする企業は、石炭を完全にグリーン水素に置き換えた新しいプロセスでの鉄鋼生産を開始しています(グリーン水素を使用した直接還元鉄)。日本製鉄はそうではありません。

同社が提案しているのは、石炭を使用する高炉に水素を加えることにより、CO2排出量を10%だけ削減することです。これでは、2021年に7500万トンものCO2を発生させた企業が行う環境に配慮した活動とは言えません。7500万トンは、オーストリアやコロンビアの国全体の排出量に匹敵します。  

日本製鉄が言わない――だから私たちが言わなくてはならない――ことは、以下の通りです。

  • 日本製鉄の排出計画は、1.5℃の道筋から大きく外れています。Transition Asiaによると、同計画によるCO2排出量は、1.5℃の道筋を毎年2200万トン上回ります。米株価指数算出会社MSCIの分析によると、同社は世界の気温を3.2℃も上昇させる、地球を焦がす軌道に乗っています。 
  • 日本製鉄は、何基もの高炉で、石炭を使用する鉄鋼生産を行なっており、インドのアルセロールミッタルとの合弁事業を通して高炉の新設への投資もしています。日本製鉄は石炭を使用するだけでなく、炭鉱の権益取得という形で石炭に多額の投資もしており、さらに投資を増やしていく考えです。
  • 2022年、日本製鉄は、気候方針に関して世界で最も後ろ向きであり、影響力のある企業の「トップ10」に入りました。同社が、石炭推進政策を支持するよう政策決定者に精力的に働きかけていることも、そうした評価を受ける理由となった環境方針一つです。
出典::MSCI(2023年5月4日にアクセス)[ENW1]
文章:日本製鉄―MSCIが示す気温上昇
3.2℃ 不整合
2~3.2℃の気温上昇が示唆される。これは日本製鉄が世界の気候目標と整合していないことを示す。
凡例:太い黒線 = 1年当たりの推定CO2排出量の推移
点線 = MSCIによる2℃の軌道
赤塗りの部分 = 炭素予算の絶対超過量

最近の例をもう一つ挙げると、米鉄鋼大手USスチールは、自社が環境に配慮している証として、広告で高炉を堂々と紹介しています。

出典:Axios Daily Newsletter (2023年4月19日)
画像に「鉄なくして気候危機は乗り越えられない」というUSスチールの言葉がある。

私はこの広告を見て、笑うべきか泣くべきかわかりませんでした。この広告は、石炭を使用する高炉のわずかばかりの改善を公表するものです。化石のように過去のものとして葬りさらねばならない石炭技術を、恥ずかしげもなく礼賛しているのです。平均的な高炉は、鉄を1トン生産するのに770kgの原料炭を使います。大きな悪い数字がわずかばかり減っても、大きな悪い数字には変わりありません。石炭を使い続ける限り、鉄にクリーンな未来はないのです。USスチールの2021年サステナビリティ戦略((Shovels are celebrated as a highlight on page 32 of the Sustainability Report.  Total GHG emissions in 2021 are not actually given anywhere in the report, but visually the 4 graphs on page 97 and 98 indicate 31.5 million tons of CO2e.))では、電動ショベル6基を更新し、ディーゼルショベル4基を廃棄することで、CO2換算値で1万4500トンを削減したと公表しています。これが、2021年にCO2換算値で3150万トンを排出した企業が、その年の「ハイライト」として特記する成果なのです。

USスチールによる2021年の報告:
3150万トンCO2の排出量スコープ1およびスコープ2
1万4500トンCO2の排出量サステナビリティ報告書に「ハイライト」として記載されている、電動ショベルによる排出削減量

私たちは監視する

技術についての詳細な分析から、石炭を使用する高炉への投資に反対する声高な反対運動、カーボンプライシング(炭素の価格付け)、グリーンスチールの厳格な基準まで、鉄鋼業の転換を推進するためにしなければならないことは山ほどあります。こうした活動すべてを支えるのが、危機感のなさに異議を唱え、グリーンウォッシュについて指摘し、意欲を引きだそうとする取り組みです。

スティールウォッチは、特に鉄鋼業界の転換に重点を置く国際的な気候活動団体として創設されました(私たちが知る限り、この目的に特化した初めての団体です)。私たちは、鉄鋼に反対する団体ではありません。鉄鋼が、炭素ゼロの経済と活気に満ちた地球の実現を阻む存在ではなく、推進する存在であってほしいと願っているのです。私たちの役目は、必要とされることと企業の約束との間の「意欲」の隔たりや、約束と実際との間の「実施」の隔たりについて、声高に指摘することです。鉄鋼は、効率的に使用され、再利用されれば、100年先にも活気に満ちた経済の一部を担うでしょう。そのためには、生産方法を変えなければなりません。そしてその変化は急を要するのです。

How useful was this article?

  1. de Villafranca, M. J. et al. (2022) Decarbonisation in the global steel sector: tracking the progress. Cologne and Berlin, Germany: NewClimate Institute. Available at: https://newclimate.org/sites/default/files/2022-12/steel_final.pdf []

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