日本は鉄鋼生産の脱炭素化に向けたG7の行動を阻むつもりなのか?
Margaret Hansbrough, Roger Smith ·
今年のG7サミットでは、低排出の鉄鋼生産に向けた世界規模の移行を加速させる動きが期待できるかもしれません。しかし議長国日本は、今なお頑なに化石燃料に基づくインフラの使用を長引かせようとしています。
5月に開催されるG7広島サミットが間近に迫り、低排出でコスト競争力のある鉄鋼生産の進展を推進する絶好の機会が訪れています。G7諸国は市場形成を担う国々で、世界の五大鉄鋼メーカーのうち3社を擁しています。G7諸国が、実証済みの低排出技術の導入と再生可能エネルギーの拡大とともに、汚染をまき散らす石炭を使用する鉄鋼生産設備の明確な段階的廃止を約束すると宣言すれば、鉄鋼業界にグリーン投資の波を起こすことができるでしょう。その行く手を大きく阻んでいるのは、依然として動きが遅い議長国日本であり、石炭を大量に使用する現状に固執し、将来を見据えた行動を取ろうとしていません。
2035年までに電力生産を脱炭素化し、脱石炭の具体的なスケジュールを設定し、新規化石燃料インフラへの政府支援を終わらせるというG7の構想を日本が弱体化させようと試み、それが一定の成果を得たことが、最近の報道で明らかになりました。今、G7首脳と、彼らがG7サミットの共同宣言で何を発表するかに世界中の視線が注がれています。
業界の既得権益に「ノー」と言えない政府
日本が世界の大きな流れから外れているのには理由があります。それは日本の重工業セクターによる長年にわたる抵抗です。世界第4位の鉄鋼メーカーである日本製鉄が気候政策をどのように妨害してきたかについて、英シンクタンク「インフルエンスマップ」が評価したところ、気候変動への取り組みに最もマイナスの影響を及ぼす企業の世界第8位にランクされました。日本製鉄は今も、化石燃料を大量に使用する電力で動く石炭ベースの高炉に大きく依存しています。同社はこの数カ月の間に、海外での採炭事業への出資を積極的に進め、海外における石炭を使用する鉄鋼生産拡大の資金調達を日本の複数の金融機関から確保しています。
日本が気候変動の分野で世界のイノベーターであり、リーダーであったのはそんなに昔の話ではありません。京都議定書発効の地である日本は、1990年代から2000年代初頭にかけて、日本のエンジニアリングの力を動員し、太陽光パネル、ハイブリッド電気自動車、省エネ型のヒートポンプなどのクリーン技術の開発に当たりました。しかし、残念ながらその後は、成長の可能性よりも変化に対する恐怖に突き動かされる既得権益者たちに「ノーと言えない」政府のせいで、日本は遅れを取ることになったのです。
名ばかりの「グリーントランスフォーメーション」
今年2月、皮肉にも「グリーントランスフォーメーション(GX)」と名付けられた基本方針が閣議決定され、日本がこの方針についてG7の承認を得ようとしているとの報道があります。しかしこの方針は、排出量の削減とともに経済競争力の強化を実現するための筋の通った戦略とは言えません。有力なコネを持つ産業界に利する、気前がいい公的な贈り物がずらりと並んでいるようなものです。名称に「グリーン」とあるため、判断力を欠く投資家には「グリーンである」と売り込むことができます。
また、この方針は、汚染を引き起こす化石燃料インフラの寿命を延ばすことに真の目的があるため、投機的な、実効性のない、あるいは高額すぎて手の届かない排出削減技術にお墨付きを与えています。それらの技術は、石炭・ガス火力発電所におけるアンモニア・水素混焼や、将来的な炭素回収・貯留に至るまで多岐にわたります。排出量の削減さえ全く実現できないかもしれません。最初にオーストラリアから出荷されたアンモニア水素は褐炭から製造されたもので、転換に伴うエネルギー損失が発生し、単に石炭をそのまま使用するよりも汚染度は高かったのです。
炭素汚染に価格を付けるような真の変革をもたらす改革は、次の10年まで先送りされています。再エネ電力の拡大路線は軌道を外れ、2030年度までに再エネ比率を36〜38%にするという現時点の控えめな目標の達成さえ難しい状況ですが、GXに切迫感はありません。非常に多くの日本の企業や自治体からは、これら2つの分野でより迅速な行動を求めるいまだかつてない大きな声が上がり、日本の経済界は分断が進んでいます。
日本の絶大な産業力や革新力を解き放つ真の競争が、クリーンで安全な電力を豊かで安価なものにすることを可能にします。これを大きく阻んでいるのは、既存の電力事業者がその受け継いできた資産を守るために競争が起こらないようにするのを手助けしている日本政府の政策です。
エイモリー・ロビンス, 国際シンポジウムREVision2023、2023年3月
逃した好機
残念ながら、日本の鉄鋼メーカーは日本経済の足を引っ張っているだけでなく、自らの将来の競争力をも危険にさらしています。鉄鋼メーカーに必要なことは、今目の前にある解決策を展開するとともに、日本の技術の潜在能力を引き出せる政策を支持することです。日本は、膨大な宝庫と化した鉄スクラップを廃棄物として海外に出荷していますが、これを電気炉で使用する良質で低コスト、低排出の鉄に変える技術を持っています。鉄鋼生産にとって低コストの再エネ電力は必要不可欠であるため、政府には、再エネのコストを下げるとともに、今後10年間で再エネを主要なエネルギー源にする新たな施策が求められます。
再エネのコスト低下と導入拡大は、石炭の代わりに再生可能な水素を利用する製鉄への移行の土台を築くことになるでしょう。再生可能な水素は、電気炉を動かす石炭の代わりにもなります。しかし実際には、政府も鉄鋼業界も、炭素回収が実現可能になるのを待ちながら、高炉に水素を吹き込んで名目だけの削減を図るなどして、実証済みの低排出技術の導入に向ける時間を無駄に費やし、遠い将来、高コストの解決策が実施されることに賭けているのです。
日本の鉄鋼セクターでは、競争力を維持するための投資や排出量を削減するための投資の機会は限られています。一方、欧州の鉄鋼メーカーは、各国政府が再エネ導入目標を着実に引き上げる中、水素で鉄を作る新たな技術の開発・実用化を進めています。米国は「インフレ削減法」によって重工業の脱炭素化にインセンティブを与え、韓国の同業各社は、製鉄所の「レスポンシブル・スチール」認証取得に向けた取り組みを進めています。日本の鉄鋼業界は傍観者に徹していますが、G7は、日本の停滞によって野心的な目標が妨害されるのを許してはいけません。今年のG7会合は、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で立ち上げた「ブレイクスルー・アジェンダ」を土台に、実証済みの低排出技術や安価な再エネを利用して変化を加速させるための明確な方向性を打ち出す機会です。石炭火力発電所の場合と同様に、G7が排出量の多い石炭ベースの鉄鋼生産の段階的廃止を約束し、その期限を設定するのを私たちはこの目で確認しなければなりません。今こそ、重工業の脱炭素化を軌道に乗せるために野心的な行動を起こすべき時です。