SteelWatch

慎重を期す時から、行動の時へ:日本製鉄 気候変動対策の検証 2025

日本製鉄は今、大きな転換点に立たされている。資源に乏しい日本を本拠地としながらも、世界第4位の鉄鋼メーカーにまで成長し、現在では北米、インド、欧州、豪州へと事業拡大を進めている。しかし、その企業戦略の背景には「高炉中心」「国内中心」の方針が依然として色濃く残る。

日本製鉄がグローバルな鉄鋼メーカーとしてその海外成長戦略を進めていくのであれば、その戦略は国際的な気候変動目標と合致するべきであろう。やがて訪れるゼロエミッション経済を見据え、鉄鋼業界全体の脱炭素化の加速化を促すものであるべきで、歯止めをかけるものとなってはならない。

今後十余年は、同社が将来に向けたビジネスモデルへの転換を図る決定的な時期となる。脱炭素化が急務となる気候危機の時代、さらに脱炭素化の競争が加速化する中、日本製鉄の有するグローバルなサプライチェーンの力を活かし、新たなビジネスモデルを確立することへの期待は大きい。一方で、石炭と鉄鉱石を国内に輸入し、高炉で製鉄を行うという旧来のモデルを軸とすることは変えない姿勢だ。

脱炭素社会において、石炭依存の製鉄はいずれ行き詰まる。どの鉄鋼メーカーも石炭を使い続け、ゼロエミッションを達成することはできない。日本製鉄が、現行の高炉における排出量の改善に年月を費やすのは、実際に必要とされるビジネスモデルの転換を遅らせ、制限する結果となり得る。

一方、韓国や国内競合他社はすでに、中東や豪州など低排出鋼材の生産に有利な地域でのグリーンアイアン(環境負荷の低い鉄源)への投資を加速させている。日本製鉄が脱炭素化を達成し、今後も鉄鋼メーカーとして存続するためには、柔軟に事業戦略を見直し、新時代に対応した再構築が不可欠である。

本報告書では、こうした課題に対する対話を促し、脱炭素の遅れがもたらすリスクと、変革によって実現できる可能性について提言を行う。

特に、以下の4点が喫緊の対応課題である:

  1. 2040年以前の脱炭素の加速:現在のロードマップでは、本格的な排出削減は2040年以降しか実現されず、現在〜2030年代に「空白の十余年」を生み出している。 グリーンアイアンへの投資、特にH2-DRI法(水素還元)をグリーン水素調達に優位な国・地域で模索することは、既存技術を用いて中期的に脱炭素化を加速させる有効な手段となるが、その戦略化について明確な方向性を打ち出していない。
  2. 石炭からの明確な段階的撤退:「空白の十余年」とされる期間(2030年代)においても、石炭への依存を強める計画を打ち出している。現時点では、高炉の操業を2050年代まで続ける計画であり、長期的な脱炭素化すらも困難な状況だ。
  3. 海外事業を含む排出責任の拡大:インドでの高炉製鉄の拡張、米USスチール買収に伴う高炉投資のコミットメントなど、海外展開における排出増加が見込まれ、2050年カーボンニュートラルとの整合性が問われている。
  4. 1.5度目標と整合する中期目標の策定:2024年の株主総会では、同社史上初の気候関連の株主提案が提出され、最大約28%の支持を得た。これは、ロビー活動の透明性、排出削減戦略、情報開示に対する投資家の期待の表れである。一定の開示改善や投資家・市民社会との対話は進展しているが、より深い中間目標を盛り込んだ戦略の抜本的見直しは未だ実現していない。

日本製鉄にとって、限られた時間の中で、気候変動対策を改善し行動に移すための課題は山積だ。グローバルな舞台で業界を牽引する企業としての信頼に応えるためには、抜本的な戦略改革が求められる。

How useful was this article?

最新の出版物