なぜ気候リスクである原料炭は見過ごされてきたのか

原料炭における重要な論点とは?
「原料炭」は、鉄鋼の生産過程で使用される石炭を指す。特に、高炉での製鉄にはこの原料炭が用いられており、鉄鋼業界における温室効果ガス(GHG)排出量の主要な要因となっている。
一般社会において、原料炭の認知後は低く、専門家以外にはほとんど知られていない。また、その定義も様々で、分かりにくいのが現状である。
原料炭は気候変動に多大な影響を及ぼすにもかかわらず、国際的な気候関連会議や、化石燃料の段階的廃止の目標設定において取り上げられることはほとんどない。これまでの石炭廃止の議論は主に、発電用途の「一般炭」の使用削減に重点が置かれてきた。
『スティールウォッチ「わかる鉄と脱炭素」シリーズ:原料炭』では、以下を明らかにする:
- 原料炭とは何か
- 原料炭はどこで生産され使用されているか
- なぜ「気候リスク」である原料炭は見過ごされてきたのか
- なぜ原料炭に対する監視や関心が高まっているのか
- 原料炭のロビー活動が、使用継続を正当化し、その本質を覆い隠すためにどのような言説を用いているのか
これまでの『スティールウォッチ「わかる鉄と脱炭素」シリーズ』では、原料炭を使用する高炉が気候に及ぼす影響や、グリーン水素の導入による原料炭依存から脱却する道筋を説明している。
原料炭とは?
原料炭は、金属の生産に使用される石炭を指す。主に高炉で鉄鉱石を還元して鉄源を生産する工程で使用される。その後、得られた鉄源は鋼(はがね)へと加工される。原料炭の全世界における年間生産量は10億tを超え、石炭消費量全体の約14%を占める。
原料炭と一般炭
「原料炭」と「一般炭」の重要な違いは、その使用目的にある。原料炭は鉄源の生産に、一般炭は発電に使用される。こうした用途の違いは、物理的特性の差異に由来しており、例えば原料炭は炭素含有率が高く、水分含有率が低いといった特性がある。このような高品位の石炭は価格が高いため1、一般的には発電よりも冶金(鉱石から金属を精製する技術)用途に用いる方が商業的に合理的とされる。しかし、こうした性質は厳格に区分されるものではなく、原料炭と一般炭の間には重複が存在する(図1参照)。特に、原料炭の中でも品位の低いものは、一般炭として転用される場合もある。
原料炭とコークス用炭
国際エネルギー機関(IEA)は、「コークス用炭(粘結炭)、非微粘結炭(セミソフト炭)、PCI炭(微粉炭吹き込み用)」をまとめて原料炭と定義している。ただし「原料炭」と「コークス用炭」は混同されがちであり、誤って同義語として使われていることがしばしばある2。
最近のデータによると、コークス用炭3は原料炭の約3分の2を占めている4。コークス用炭は、コークス炉で焼成され、コークス(冶金用コークス)へと加工された後、高炉へ投入される。このプロセスは高炉製鉄において不可欠である5。
一方、原料炭の残る3分の1は、PCI炭や非微粘結炭である。PCI炭は、高炉運転の効率性および経済性の観点から、炉内に直接吹き込まれ、コークスの代替として燃料および還元剤として使用される。また、非微粘結炭は、コークス用炭と混合してコークス炉に用いられるほか、高炉ではPCI炭と混合して使用される。これらの石炭は、一般炭との性質の差が比較的小さく、原料炭の中でも発電用途へ転用されやすい。なお、発電用の燃料として使用される場合、それはもはや原料炭とは分類されない6。
図1:原料炭における連続的特性と曖昧な分類境界

何をもって原料炭と分類されるのか、その差異や定義は重要な意味を持つ。なぜなら、原料炭と分類された石炭は、石炭の段階的廃止に向けた政策的・社会的制約の対象から外れやすいからである。
石炭とともに発展した鉄鋼業界
産業革命以降、鉄鋼の歴史的発展と地理的配置は、石炭採掘の広がりの歴史と密接に関係している。
高炉は12世紀に初めて登場し、それから何百年もの間、木炭(木材を炭化させた燃料)を使用してきた。中国、ヨーロッパ、中東では、木炭製造のために大規模な森林伐採が行われた。18世紀まで、鉄鋼メーカーは木炭を燃料や、さらには鉄に炭素を添加させる「浸炭」用途としても使用していた。
1709年、エイブラハム・ダービーが高炉で木炭ではなくコークスを使用して銑鉄を生産する方法を確立し、鋳物(ポットやケトルなど)の製造に成功した。この技術革新が生産能力を押し上げ、石炭とコークスの需要をさらに高めた。産業革命が進む中、鉄鋼生産は石炭鉱山の近隣に立地する傾向を強めた。その後20世紀に入り、鉄鋼生産のグローバルな拡大に伴い、米国、中国、インドなどの国々で原料炭の採掘が拡大された。一方で、日本や韓国のように石炭資源を欠く国々は、石炭を輸入するためのサプライチェーン構築を迫られた。
現在、世界で生産される鉄鋼の約70%が、原料炭を必要とする約400カ所の高炉一貫製鉄所にで製造されている。この最も広域で採用されている生産方式は、「高炉-転炉法(BF–BOF)」と呼ばれ、コークス用炭を加熱してコークスを生産し、それを高炉に投入して鉄源を生産する。その後、銑鉄(溶銑)は高炉から転炉に送られ、鋼に加工される。鉄鋼生産プロセスとその影響の詳細については、『スティールウォッチ「わかる鉄と脱炭素」シリーズ:鉄鋼と気候』をご参照いただきたい。現在の大型高炉の生産能力は一般的に年間100万tを超え、最大で年間500万tを超える場合もあるが、これらは石炭なしでは稼働できない。図2は、原料炭がいかに現在の鉄鋼生産の中核を成しているかを示している。
図2:高炉内での原料炭の機能

原料炭が気候に及ぼす重大な影響
鉄鋼生産における原料炭の使用は、それ自体が気候変動の大きな要因となっている。原料炭は高温加熱でコークスに加工し、高炉で燃焼させ、得られた鉄源を鋼に加工する、この一連のプロセスにより、生産される鋼1tあたり2.3tの二酸化炭素(CO2)が排出される。
このことから、原料炭は莫大なカーボンフットプリントを有し、気候危機の大きな要因であるといえる。
しかし、さらにこれを悪化させるのが、採掘時に排出される大量のメタンである。原料炭は一般的にメタンの濃度が高い地中深くから採掘される。メタン漏出は頻繁に発生するにもかかわらず、その多くは適切に測定または報告されていない。原料炭採掘によるメタン排出量は、一般炭の約3倍と推定されており、爆発による安全上のリスクも高い。
IEAの2022年の報告書では、原料炭採掘に伴うメタン漏出は年間約1GtCO2e(CO2換算値)に達すると推定されている。しかし、メタン漏出についてはデータが不足しているため、石炭を使用する鉄鋼生産に関する多くの排出統計は、このメタン排出量を考慮していない。仮に、これらの排出を含めた場合、高炉-転炉法による鉄鋼生産の年間排出量は4.2GtCO2eになると推定され、排出原単位は鉄鋼1tあたり3tCO2e超に達することになる7。
原料炭採掘は気候への影響に加え、生物多様性の損失、大気汚染8、人権侵害、労働者の暮らしや安全にも影響を及ぼす。例えば、鉄鋼メーカーのアルセロール・ミッタルが所有するカザフスタンの原料炭炭鉱では、2023年8月に火災が発生して労働者5人が死亡、さらに同年10月には同炭鉱でメタン爆発が起き、46人の命が奪われた。
原料炭の採掘・輸出入の現状
IEAによると、2023年における世界の原料炭生産量は11億700万tに達し、石炭総生産量の12.3%を占めている9。
中国は、原料炭の圧倒的な生産量を誇る世界最大の生産国であり、自国の鉄鋼業界に供給するのみならず、国内需要を満たすために一部輸入も行っている。一方で、世界全体に目を向けると国際的に取引される原料炭量は、総生産量の32%にとどまっており、貿易市場に出回るのは一部に過ぎない。その中で、国際取引でトップに経つのはオーストラリアで、世界輸出量のほぼ半分を占める。主な輸入国は中国、インド、欧州、日本である(図3参照)。
図3:世界の原料炭の生産量と貿易量

企業レベルでは、BHP三菱アライアンス(BMA)やグレンコア(本社:スイス)など大手採掘企業・商社が主要な原料炭事業者である。一方、日本製鉄、POSCO(韓国)、マグニトゴルスク製鉄所(MMK)(ロシア)、インド国営製鉄会社(SAIL)(インド)、JSWスチール(インド)、ラシュトリヤ・イスパット・ニガム(RINL)(インド)といった鉄鋼メーカーも、原料炭炭鉱に出資している。とりわけ、日本製鉄やPOSCOによる出資は、これら鉄鋼メーカーが原料炭への依存度が高い一方で、国内の供給に頼ることができない事実を反映している。
例えば2023年、日本製鉄は、テックリソーシズ(カナダ)社が分社化したElk Valley Resourcesに20%出資した(出資比率は、グレンコアが77%、POSCOが3%)。日本製鉄によると、テックリソーシズは、「世界第2位の高品質製鉄用(コークス用)原料炭サプライヤー」であり、原料炭生産量は年間約2700万tにのぼる。日本製鉄は、この出資によって、世界の市場価格や供給動向といった「外部環境に左右されにくい連結収益構造への転換」が図られると述べた。
拡大を続ける原料炭採掘
IEAは2021年の時点で、世界が2050年までにネットゼロエミッションを達成するためには、炭鉱の新規開発や操業期間の延長は行ってはならないと警鐘を鳴らしていた。
しかし、グレンコア、三菱商事、テックリソーシズ、BHPグループ(豪州)、ホワイトヘイブン・コール(豪州)といった企業によって、原料炭の炭鉱は今も拡張を続けている。この拡張には、銀行や投資家からの潤沢な資金が投じられている。2016~2023年の7年間で、原料炭拡張への金融支援は総額5570億米ドルにのぼった(ただし中国企業への金融支援を除く)。2023年6月時点で、原料炭開発企業上位50社(中国企業を除く)に対して、合計で1630億米ドル相当の株式を保有する投資家の中には、米国のブラックロック(保有比率11%)やバンガード(10%)、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)(5%)などが含まれていた。
さらに、2030年までに操業予定とされる計画がすべてが実行された場合、原料炭に由来するメタン排出量は2030年までに7%増加すると見られ、操業開始時期が未定の事業計画も含めると、排出量は最大20%増える可能性がある。
原料炭は気候変動の議論から除外されてきた
パリ協定に記された範囲内に気温上昇を抑えるためには、あらゆる種類の石炭を段階的に廃止する必要がある。一般炭の使用制限に関する取り組みは一定の前進が見られる一方、原料炭はこうした規制から長らく免除されてきた。その背景には、鉱業・鉄鋼業界が戦略的なロビー活動を行い、再生可能エネルギーへの転換が進む一般炭と異なり、製鉄における石炭使用には現実的な代替手段が存在しないと主張していることが一因としてある。
リクレイム・ファイナンスが公表している金融機関の石炭方針に関する分析ツール「Coal Policy Tool」によると、調査対象となった300の主要金融機関のうち46%が、一般炭の融資を制限する気候方針を採用している一方で、原料炭を対象としている方針を採用しているのはわずか14件にとどまる。そのうち、原料炭の拡張に対して厳格な方針を採用しているのはチューリッヒ保険(Zurich Insuarance)のみだった。
しかし、原料炭への圧力は確実に高まっている。ドイツの環境NGOウルゲバルト(Urgewald)が作成した「脱原料炭リスト(MCEL)」は、18カ国160社による252件の原料炭プロジェクトに着目し、金融機関に対して資金提供の停止を呼びかけている。こうした動きを受け、チューリッヒ保険会社は原料炭拡張への保険引受を停止した世界初の保険会社となった。
防戦に回る原料炭業界
一部の業界関係者は、一般炭の段階的廃止が進む中、原料炭のイメージ改善を図り、原料炭を「安全な投資先」として位置付けようとしている。
一部の企業は、原料炭は他の石炭とは根本的に異なる「良い石炭」だと称し、新たな呼称でイメージの刷新を図っている。例えば、グレンコアは「石炭・炭素鋼原料(coal and carbon steel materials)」という用語を使用している。テックリソーシズの前CEOドン・リンゼー氏は、「投資家は良い石炭と悪い石炭を区別していない。製鉄用石炭は脱炭素化に不可欠であるにもかかわらず、正当に評価していない」と述べ、投資家に同社が過小評価されていると主張している。業界が「製鉄用石炭(steelmaking coal)」や「炭素鋼原料 (carbon steel materials)」といった呼称を用いる際、原料炭を他の石炭と意図的に区別し、社会的批判や政策的な規制から逃れようとしている可能性を、見極めなければならない。
原料炭は、鉄鋼生産に不可欠とする主張のもとで擁護され続けている。業界ロビー団体のフューチャーコールは、原料炭は「鉄鋼生産および産業の成長に欠かせない重要な要素」であると主張している。2024年8月には、日本製鉄が四半期決算報告書の中で、「カーボンニュートラル鉄鋼生産プロセスにおいても一定量の原料炭が必要」との認識を示した。オーストラリアやニュージーランド、そして最近では米国の石炭業界も、原料炭を重要鉱物として認定するよう政府に働きかけている。
しかし、こうした主張は本質を歪めている。名称がどう変わろうとも、石炭は石炭であり、気候危機を加速させる。鉄鋼は持続可能な社会の構築に不可欠だが、その生産において石炭への依存を続けることは、もはや脱炭素社会の未来にはそぐわない。
この他にも、鉄鋼は炭素を含む合金である以上、その生産には常に石炭が必要であると強調する声もあるが、これは誤解を招く主張である。鋼材中の炭素含有率は、鋼材の品質や硬度によって異なるものの、一般的に0.25~2%の範囲にとどまる。これほど少量の炭素であれば石炭に限らず、天然ガス、あるいは生物由来の原料からも調達でき、製鉄工程または製鋼工程の段階で投入できる。この炭素の必要量は、1000kgの鋼材を生産するのに770kgもの石炭を使用することの正当性を裏付ける根拠とはなり得ない。
原料炭から脱却する鉄鋼の未来
国際的に合意された気候変動目標を達成するためには、徹底した鉄鋼生産の脱炭素化が絶対的に不可欠である。
その実現には、高炉を廃止し、生産工程から石炭を完全に排除する必要がある。特に、スクラップ鉄を使用した電炉(EAF)による生産割合を高めるとともに、鉄源の製造に新たな脱炭素技術を採用することが求められる。
この「新たな製鉄技術」の中核を成すのが、石炭に依存せずに鉄鉱石を還元する直接還元製鉄(DRI法)によるバージン鉄(鉄鉱石由来の鉄源)の製造である。すでに、DRI法による直接還元鉄の生産量は少ないながらも着実に増加しており、これまで主に天然ガスを還元材とすることで、高炉に比べて大幅な排出削減が実現している。天然ガスを再生可能エネルギー由来のグリーン水素に置き換えることで、ニア・ゼロエミッションの鉄鋼生産が可能になり、より大きな排出削減の可能性をもたらす。2021年には、この方法による鉄鋼生産が世界で初めて成功している。
さらに、2026年にはグリーン水素を使用するDRI法を導入した世界初の商用規模製鉄所の稼働開始が予定されており、現在その建設が進められている。水素を活用した鉄鋼生産の詳細については、スティールウォッチ「わかる鉄と脱炭素」シリーズの記事「グリーン水素」をご参照いただきたい。
原料炭を巡るナラティブの転換点
原料炭は、鉄鋼生産が抱える深刻な気候変動課題の主要な要因であり、もはや鉄鋼生産に「不可欠な存在」との認識をあらためる時が来ている。
政策立案者、投資家、鉄鋼業界関係者は、原料炭の課題に正面から向き合い、その段階的な廃止に向けた対応を進める必要がある。
- 石炭採掘・製鉄・製鋼を担う企業には、原料炭由来の排出量についてより透明性の高い監視・測定体制を導入し、排出削減に向けて今すぐできる対策に投資し、原料炭を含むすべての石炭からの移行計画を策定することを求める。
- 規制当局や政策立案者には、原料炭が気候にもたらす影響を正しく認識し、「原料炭は不可欠」「原料炭は良い石炭」といった業界の主張に惑わされることなく、原料炭を特別視しない科学的根拠に則った対応を求める。
- 金融機関には、一般炭事業を投融資対象から除外する措置と合わせて、原料炭に対する除外措置の強化を求める。そうした基準が整備されるまでは、「原料炭」という用語が、発電所・セメント工場・石油化学工場などで「一般炭」として使用される石炭を偽装する抜け道として使われうることに注意を払う必要がある。
- 再生可能エネルギー事業者や鉄鉱業企業、鉄鋼メーカー、および政策立案者には、ゼロエミッション経済の実現に向けて、100%再生可能エネルギーを利用し、石炭を一切使用しない製鉄工程への転換に投資することを求める。
原料炭は、紛れもなく石炭であり、気候にもたらす影響は一般炭と同等かそれ以上である。気候変動目標を達成するには、原料炭も例外なく完全に廃止される必要がある。
これは、『スティールウォッチ「わかる鉄と脱炭素」シリーズ』の一部で、複雑に絡み合った問題を整理し、業界で広く語られる主張を正確に検証することで、鉄鋼業界の脱炭素化を推進する理解と勢いを高めることを目指している。
この解説の編集にご協力いただいたマーティン・ライト氏に心より感謝申し上げます。
文末脚注
- KPMGによる2025年の石炭価格予測によると、原料炭の市場価格は一般的に一般炭に対して70〜90%のプレミアムが付いている。2024年の取引価格平均では、原料炭は1トンあたり205米ドル、一般炭は同期間で135米ドルで取引されていた。
- IEA(2024年)の例:Coal of this quality [coking coal] is commonly known as metallurgical coal(作者訳:この品質の石炭[コークス用炭]は、一般的に原料炭として知られている)。ロイター(2024年2月22日)の例:metallurgical coal, also known as coking coal(作者訳:原料炭、別名コークス用炭)。
- コークス用炭にはさまざまな種類があり、高炉用途に最も適した「強粘結炭(hard coking coal, HCC)」のほか、「非微粘結炭(semi-soft coking coal)」や「弱粘結炭(soft coking coal)」などの低コークス性の石炭も存在する。
- GEI(2025年)によれば、世界的に見て原料炭の約65%がコークス用炭に分類されるが、その割合は地域によって異なる。また、同報告では「2022年における世界全体の石炭消費量のうち、鉄鋼業は約14%を占め、そのうち9%がコークス用石炭、5%が一般炭であった」とされている。
- コークス用炭は空気を遮断した状態で加熱され、再び固化して多孔質かつ硬質な一体型のコークスを形成する。コークス用炭は高い耐圧強度を持ち、現代の大規模高炉において不可欠である。石炭は高炉で鉄鉱石を還元するために必要な炭素、熱エネルギー、還元剤を提供する一方で、コークスは鉄鉱石を支える強固で多孔質な層を形成し、ガスがその間を通過することを可能にする。
- 原料炭と一般炭の区別が曖昧であることは、鉱山のデータにも表れている。Global Energy Monitor(2024年4月)の報告によれば、純粋な原料炭の採掘量は9億3000万tであるのに対し、原料炭と一般炭の混合鉱山からの採掘量は7億8000万tにのぼる。業界では一般的に両者を区別しているが、実際には重複が存在する。たとえば、オーストラリア鉱物評議会(2021年)は、「PCI炭およびセミソフト炭は技術的には原料炭に分類されるが、実際には火力発電所などで一般炭としても使用され得る」と述べている。
- 詳細については、当団体の報告書「鉄鋼生産における 石炭利用に終止符を」(2023年)を参照。
- CREA(2024年)「Air quality impacts of ArcelorMittal’s Temirtau steel plant in Kazakhstan — 1996 to 2023」
- 生産量に占める割合(12.3%)と消費量に占める割合(14%)の間に小さな差異が生じることがあるが、これは在庫の変動やデータの欠落による可能性がある。消費量の合計は、原料炭の気候への影響をより正確に反映するため、両方の数値が利用可能であれば、消費量の数値を使用するのが望ましい。ただし、生産量の方が正確に追跡しやすく、消費量の数値は必然的に推定値であることに注意が必要である。
主要用語
高炉(BF)/ 高炉-転炉法(BF-BOF)
⾼炉では、鉄鉱⽯を⽯炭と混ぜて銑鉄(溶銑)を生産する。その後、転炉で鋼(はがね)に加⼯する。この鉄鋼⽣産プロセスを⾼炉-転炉法と呼ぶ。
コークス
コークスは、原料炭(コークス用炭)を空気を遮断した状態でコークス炉内で高温加熱(蒸し焼き)することにより得られる石炭製品である。得られたコークスは、多孔質で硬く、密度が高く、炭素含有率の高い物質である。鉄の製造においては、高炉で燃料および還元材として使用される。
直接還元製鉄(DRI法)/ ⽔素直接還元製鉄(H2-DRI)
DRI法(直接還元製鉄)とは、⾼炉に代わる製鉄技術である。⾼炉は、⽯炭を必要とするが、DRI法では⽯炭、天然ガス、⽔素など幅広い材料を使⽤して酸化鉄を還元できる。
現在、DRI法は主に天然ガスを使⽤している。しかし、グリーン⽔素を使⽤することで、CO2排出量をゼロに近づけることができる。このように⽔素を使⽤するDRI法を、H2-DRI(⽔素直接還元製鉄)と呼ぶ。
原料炭
原料炭とは、冶金目的で使用される石炭を指す広義の用語である。これは特定の石炭を指すものではなく、特にバージン鉄の生産など、金属を作るために使用されるさまざまな種類の石炭を含んでいる。この用語は、火力発電用の石炭(一般炭)と区別するために使われるが、原料炭と分類される一部の石炭は、発電目的で一般炭に分類されることもある。
メタン
メタンは、大気中での寿命は比較的短いものの、非常に強力な温室効果ガスであり、20年間の時間軸で見ると二酸化炭素の82.5倍の温室効果を持つとされている。気候変動を引き起こす第2の要因であり、産業革命前からの人為的な地球温暖化の約30%を占めていると推定されている。
一般炭
主に発電や熱供給を目的として使用される石炭。燃焼によって熱エネルギーを発生させ、蒸気をつくることでタービンを回し、火力発電所で電力を生み出すために用いられる。