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鉄鋼生産が気候変動を引き起こす理由 ー 変革への道を探る

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鉄鋼と気候における重要な論点とは?

鉄鋼は、硬く強く光沢がある金属で、現代社会に欠かせない素材である。現代のインフラや経済の基盤を支え、風力タービンや太陽光パネル、電気自動車、環境に配慮した建物など、持続可能な未来に向けた「グリーン移行」において重要な役割を担っている。

しかし、現在主流の鉄鋼生産では、製鉄工程において石炭を使用する高炉が用いられており、気候変動を引き起こす大きな要因となっている。それにもかかわらず、このことはあまり知られておらず、十分に理解もされていない。

鉄鋼生産は、世界の二酸化炭素(CO2)排出量全体の約11%を占めている。気候目標達成への希望を持つならばこの状況は変えなければなければならない。そして何より重要なのは、変えることが可能であるということだ。

『 スティールウォッチ「 わかる鉄と脱炭素」 シリーズ:鉄鋼と気候』 では、 以下を明らかにする:

  • 鉄鋼とは何か、どのように生産されるのか
  • なぜ、石炭を使用する高炉で鉄源を生産すると、気候変動を引き起こすガスが排出されるのか(図1)
  • 鉄鋼は、気候変動を引き起こす温室効果ガス排出量のうちどれだけの責任を有するのか
  • どうすれば、気候変動を悪化させることなく鉄鋼を生産できるのか
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図1:高炉による製鉄工程が鉄鋼業界におけるCO2排出量の主な要因

出典:世界鉄鋼協会, アゴラ(日本語訳:自然エネルギー財団 翻訳協力), GEI 1

鉄鋼とは何か?

鉄鋼は、主に鉄と、微量の炭素(0.05%~2%)、さらに種類によってはその他の元素も加えてつくられた合金である。

鉄鋼は、強度と柔軟性を兼ね備えていることから高く評価されている。建設資材からカトラリーまで幅広い用途に適している。また、溶かして再利用できるリサイクル可能な素材でもある。

鉄鋼は自然界には存在しないため、人の手によって作られている。人類はこれまで鉄鋼の生産で大きな成功を収めてきた。2014年には、地球上の鉄鋼の質量は全生物の7倍以上、そして人類の70倍に相当していた(図2:地球上で圧倒的な存在感を持つ鉄鋼2

鉄鋼はどのように生産されるのか?

鉄鋼は、溶銑に少量の炭素とその他の元素を加え、不純物を取り除いて化学組成を調整することで生産される。こうして得られた溶鋼(粗鋼とも呼ばれる)はその後、用途に応じて様々な形状や大きさに成形することができる。

鉄鋼の主原料である鉄源は、以下の2つの方法で得られる: :

  • 鉄鉱石を鉄源に変換する方法。これで得られた鉄源は「バージン鉄(virgin iron)」「鉄鉱石由来の鉄」「金属鉄」とも呼ばれる。鉄鉱石(酸化鉄)は、鉱山で採掘される原料で、これを鉄源に変える工程は「製鉄工程(還元工程)」と呼ばれ、今日では石炭を使用した高炉で主に行われている。
  • スクラップ鉄を再利用する方法(生産工程で発生する端材のほか、古い高層ビル、自動車、船舶などから回収されたリサイクル鋼材を使用)。

鉄鋼の生産方法は一般的に、バージン鉄を用いる一次製鉄(プライマリー製鉄)と、スクラップ鉄を用いる二次製鉄(リサイクル製鉄)の2つのルートがあると言われている。しかし、実際には鉄鋼の品質要件や材料の供給状況、製鋼炉の種類に応じて、バージン鉄とリサイクル鋼材がさまざまな割合で混ぜられている。利用可能なスクラップ鉄の量は過去の鉄鋼生産量に依存するため限界があり、現時点では鉄鋼の全需要を満たすには不十分である。ただし、今後利用できるスクラップ鉄の量は増加することが予想される。現在、スクラップ鉄は鉄源の総使用量の約30%に相当している。

重要なのは、現在の鉄鋼の約70%が、石炭を使用する高炉による製鉄工程を経て生産されているということだ。この工程が鉄鋼関連の温室効果ガス排出量の大部分を占めており、早急に見直す必要がある。

なぜ製鉄工程が気候変動を引き起こすのか?

一般的に、バージン鉄の大半は、現在以下のような方法で生産されている:

鉄鉱石とコークス(原料炭からつくられる)が高炉に投入され、そこでコークスは非常に高温で加熱されガスを発生させる。このガスは、鉄鉱石を溶かしながら酸素と反応し、溶銑とCO2を生成する。

原料炭には以下の4つの重要な役割がある:

  • 鉄鉱石に含まれる酸化鉄の還元剤としての役割
  • 鉄を溶かすほどの高温に達するための燃料としての役割
  • 鉄鋼の原料である炭素を供給する役割
  • コークス層を形成し酸化鉄がその上に乗ることで、ガスの通路を確保するという、高炉の物理的構造を可能にする役割

高炉で使用される石炭はコークスだけではない。鉄鋼の生産に使用されるさまざまな種類の石炭は、総称して原料炭(冶金用石炭)と呼ばれる。鉄鋼業界の規模と原料炭の主要な役割を考慮すると、鉄鋼業界は世界の石炭消費量の14%を占めている(2022年時点)現代の高炉は、石炭のように炭素を多く含む固体材料がなければ機能しない(図3)。

図3:高炉の構造

鉄鋼生産の各工程でCO2が排出される(図4)。具体的には以下の工程がある:

  • 高温で加熱し、石炭からコークスを生産
    • この工程で、生産される鉄鋼1tあたり0.71tのCO2を排出
  • 高炉でコークスを燃焼させて銑鉄を生産
    • 鉄鋼1tあたり1.41tのCO2を排出
  • 銑鉄から鋼(はがね)を生産
    • 鉄鋼1tあたり0.21tのCO2を排出

合計すると、生産される鉄鋼1tあたり2.33tのCO2が排出されることになる3

図4:各生産工程における鉄鋼1tあたりの温室効果ガス(GHG)排出量

出典:スティールウォッチリオ・ティント世界鉄鋼協会

石炭の採掘や輸送によって発生するメタンなどの排出量を考慮した場合、この数字はさらに大きくなるだろう。現在入手可能な(メタンの影響に関する)データは限られているが、生産される鉄鋼1tあたり約0.72t(CO2換算)が追加されると推定されている。

国際エネルギー機関(IEA)によると、鉄鋼生産からの直接的なCO2排出量は、2019年時点で鉄鋼業界全体で年間2.6Gt(ギガトン)にのぼる。これは世界の年間CO2排出量の7%に相当し、そのうち90%は高炉を使用する鉄鋼生産による。さらに、各鉄鋼メーカーのエネルギー使用により生じる間接的な排出量も含めると、世界中の製鉄所におけるCO2総排出量は3.7Gtとなり、世界のCO2総排出量の11%にあたる。(なお、この数値には上述のようにメタンなどCO2以外の温室効果ガスは含まれない。)

現状から脱却する、別の道はある

世界の各国政府は、地球の気温上昇を1.5℃に抑える努力を追求することに合意した。

現代の高炉は以前より効率的になったものの、石炭に依存する構造である以上、大量のCO2を排出し続ける。

一部の鉄鋼メーカーは、炭素回収技術の導入や、使用する石炭の一部を他の還元剤に置き換えることで、気候の制約を受ける世界でも高炉を正当化しようとしている。しかし、こうした方法のいずれも、1.5℃目標達成にほど近いCO2排出量削減を実現することはできない。特に炭素回収に関しては、高炉を使用し続けたままCO2排出量を1.5℃目標と整合するレベルに到達するような稼働中の設備はなく、具体的なプロジェクト計画すら存在しない。

つまり、石炭を使用する高炉で生産された銑鉄を用いて鉄鋼を生産し続ける限り、1.5℃目標の達成は望めない。可能性は閉ざされたわけではなく、現状から脱却する道はある。 高炉から脱却し、気候への影響を大幅に削減するためには、以下の4つの行動をとることができる。これらはいずれも、現世代の私たちが実現できるものだ:

  1. 鉄鋼生産プロセス、特に鉄源の生産方法を変革する
  2. リサイクル鋼材(スクラップ鉄)を使用した鉄鋼生産の割合を増やす
  3. 鉄鋼生産のすべての工程で消費される電力と熱に、再生可能エネルギーを利用する
  4. 鉄鋼の使用効率を高めたり、気候への影響が少ない素材に置き換えたりすることで、鉄鋼の生産量と消費量を全体的に削減する

これらすべてが一翼を担うことができるが、最優先しなければならないのは、1つ目の一次製鉄による生産、特に鉄鉱石からバージン鉄を生産する方法の変革だ。ここでこそ、大きな進展が期待でき、実際に成果が現れはじめている。

石炭から脱却した鉄鋼の未来

鉄鋼はよく、特に業界関係者から「排出削減が困難」なセクター(炭素排出量の削減策をとるのが難しいセクター)だと言われる。だが、これは時代遅れの考え方だ。今や数多くのイノベーションにより、排出量削減が可能になりつつある。

特に、DRI法(直接還元製鉄)を拡充することで、石炭を使用する高炉を使わずに鉄源を生産することが可能だ。すでにバージン鉄の約7%がこの方法で生産されており、主に(化石燃料である)天然ガスが使われている。この方法により、石炭を使用する高炉と比べ、炭素排出量が大幅に削減される。

Sources: World Steel in Figures 2024 and Hybrit, August 2024

さらに大きな可能性は、この天然ガスを水素に置き換えることで得られる。特に、再生可能エネルギーで発電された電力(再エネ電力)を使用して生成される水素(いわゆる「グリーン水素」)を使った場合、得られるメリットははるかに大きくなる。この方法で生産されたニア・ゼロエミッションの還元鉄は、電炉に装入することができる。この電炉も再エネ電力で稼働すれば、鉄鋼生産のプロセス全体が一貫してゼロエミッションに近づくことになる。この方法を用いた鉄鋼生産は、2021年に初めて成功した。水素を使用するDRI法(水素直接還元製鉄、H2-DRI)は、現在複数の大規模製鉄所で導入が進んでおり、2026年に生産開始の予定である。

この「H2-DRI」は、技術的に実現可能であり、実践で証明されている。さらに、生産工程が改善され規模が拡大すれば、経済的実現性も高まる。特に再生可能エネルギー源が豊富な地域での実現性が期待される。DRI法は、鉄鋼による気候への影響を抑える上で大きな役割を果たしうる。他に有望な技術も開発されているが、まだまだ実用化の準備は整っていない。

課題は依然として厳しく、早急な対応が求められている。 気候変動の抑制に真剣に取り組むのであれば、鉄鋼生産から石炭を完全に排除するために断固たる行動が必要である。

文末脚注

  1. 排出原単位は、World Steel in Figures 2024より。CO2の総排出量に占める割合の推定値は、おおよそ90%であり、アゴラは95%以上、GEIは86%と報告している。
  2. Emily Elhacham, Liad Ben-Uri, Jonathan Grozovski, et al. Global human-made mass exceeds all living biomass. Nature 588, 442–444 (2020), https://doi.org/10.1038/s41586-020-3010-5. Fridolin Krausmann, Christian Lauk, Willi Haas, Dominik Wiedenhofer, From resource extraction to outflows of wastes and emissions: The socioeconomic metabolism of the global economy, 1900–2015, Global Environmental Change, Volume 52, 2018, https://doi.org/10.1016/j.gloenvcha.2018.07.003.3.
  3. スティールウォッチ 鉄鋼生産における 石炭利用に終止符を 2023, Rio Tinto Scope 1, 2 and 3 Emissions Calculation Methodology – Addendum 2023, World Steel in Figures 2024.

主要⽤語

炭素排出量

本文では、鋼鉄生産における二酸化炭素(CO2)の排出に焦点を当てている。CO2は、地球温暖化を引き起こし、気候変動の主要な原因となる温室効果ガス(GHG)である。一方で、同じく重要なGHGであるメタンに関するデータは現時点で不明瞭であり、さらなる注目が必要である。

高炉(BF)/ 高炉-転炉法(BF-BOF)

⾼炉では、鉄鉱⽯を⽯炭と混ぜて銑鉄(溶銑)を生産する。その後、転炉で鋼(はがね)に加⼯する。この鉄鋼⽣産プロセスを⾼炉-転炉法と呼ぶ。

電炉(EAF)

電炉では、電気を利用して鉄源やその他の原料から溶鋼を生産する。スクラップ鉄や特定の種類のバージン鉄を原料として投入することが可能である。

直接還元製鉄(DRI法)/ ⽔素直接還元製鉄(H2-DRI)

DRI法(直接還元製鉄)とは、⾼炉に代わる製鉄技術である。⾼炉は、⽯炭を必要とするが、DRI法では⽯炭、天然ガス、⽔素など幅広い材料を使⽤して酸化鉄を還元できる。

現在、DRI法は主に天然ガスを使⽤している。しかし、グリーン⽔素を使⽤することで、CO2排出量をゼロに近づけることができる。このように⽔素を使⽤するDRI法を、H2-DRI(⽔素直接還元製鉄)と呼ぶ。

なお、DRIという用語は、プロセスそのものだけでなく、生成物である直接還元鉄(direct-reduced iron)を指す場合もある。日本語表記においては、生成物である直接還元鉄をDRI、プロセスをDRI法と表記する。この直接還元鉄は、電炉や、電気溶融炉と転炉を組み合わせることで鋼に生産されるが、その過程では他にもいくつかの工程が必要である。

バージン鉄(Virgin iron) / 鉄鉱石由来の鉄源

バージン鉄とは、鉄鉱石から直接生産される鉄源を指す。スクラップ鉄を溶融・加工して得られる鉄源とは区別される。

原料炭

原料炭とは、冶金目的で使用される石炭を指す広義の用語である。これは特定の石炭を指すものではなく、特にバージン鉄の生産など、金属を作るために使用されるさまざまな種類の石炭を含んでいる。この用語は、火力発電用の石炭(一般炭)と区別するために使われるが、原料炭と分類される一部の石炭は、発電目的で一般炭に分類されることもある

This is part of the SteelWatch Explainer series, which aims to demystify confusing issues and set the facts straight on common industry claims, so as to build understanding and momentum for transformative steel decarbonisation.


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